相澤からタバコをもらう

13:00、下には元気な生徒たちが見える。あれば多分普通科の体育の授業かな、そう思いながら目の前の空に紫煙を揺らす。
肺いっぱいに広がる有害な煙。
電子タバコ特有の燻した匂い、紙タバコとはちがう味、いつしか紙から電子が当たり前になった。
最初は苦手だった燻した感じも気付けば慣れた、しかしたまに吸う紙タバコはとても美味しい。
灰皿は最悪なくても困らないのが電子タバコのいいところ。紙を吸うときには昔ならたくさんあった喫煙所を探さなければない。

「何と面倒なことかー」
「面倒だからって屋上で吸うな」
「そんなこと言われましても、喫煙所が遥か彼方何ですよ、それに電子なんで」
「電子タバコも吸うなと言っている」
「セメントスさんに頼んで近くに喫煙所作ってもらうか…」
「手を煩わせるな」

だいたい…といつの間にやら屋上に来た相澤先生の小言が始まる。
仕方ないじゃないか、喫煙者には定期的な煙の摂取が必要なんだぞ。イライラしちゃうんだから。
そう心で呟きながら、自動販売機で購入したココアを片手にもう一度タバコを咥え煙を吸う。
タバコが刺さる機械からはブーというあと少しで吸い切る合図のバイブと光の点灯
目の前には相澤先生、非喫煙者に向かって吹くのは流石に可哀想だと横に向かって紫煙を吹く。
それを見た相澤先生は眉間に皺を寄せた。

「もうすぐ吸い終わりますよ」
「禁煙しろとは言ってないだろ」
「ヘビースモーカーじゃないにしても、タバコを吸うとやっぱり定期的に吸いたくなるんですよ、ご飯を食べ終わった後とかね」
「それが今だと?」
「その通り」

この会話ももう何度も繰り返している。相澤先生が職員室から消えたタイミングだとか戻ってきてすぐだとか色んなタイミングで色んなところに吸いに行くもやはり屋上が1番迷惑にならないと勝手に決め、もう最近は逃げ隠れすることさえも辞めた。
おかげで怒られる回数は生徒と変わらないだろう。
最後の一回をしっかり吸い切ってタバコを元刺さっていた箱にしまう。
さて、2本目も吸いたいところだが目の前のこの人をどういなそうか。

「まさか2本目を吸う気じゃないな?」
「いえ、まさか」
「吸う気だったな…」

にっこりと笑って誤魔化すもこれは今日は2本目は無理だなと諦める。仕方ない、寮設備の喫煙所まで遠いがそこに行くかと歩を進めようとした時にカチンと金属音がなった。

「何だ」
「あ、相澤さん、タバコ吸いましたっけ?」
「稀にな」
「そ、うなんですね」

カチンとなったのはジッポライダーの蓋が閉まる音。百害あって一利なし、なんて怒りそうなこの人は実は喫煙者だったと?よく我慢できるな。と思わず感心してしまう。

「このご時世に珍しく紙タバコですか?」
「…まぁな、」
「あ、その銘柄私も吸ってました。寮入る前まで」
「知ってる。」
「美味しいですよね、それ」
「お前が吸ってたから吸ってる」

ほら、と懐かしいタバコを手渡される。思わず口に咥えてタバコに火をつけようとするが燃やすライターは私の手元にはない。それのせいだ。それのせいで思わず言葉を聞き流してしまった。聞き続けてしまった。それが悪かったのだ。

「寮に入ってからそっちになったな」
「まぁ、気にされる人もいると思うし」
「電子だとしても気になるだろ」
「まぁ確かに、でも意外でした。相澤先生がそのタバコを吸われてるなんて」
「言っただろ、今。お前が吸ってたからだって。」

相澤先生から吹かれる紫煙、過去の私がふかしていたタバコの香り。

「お前の、なまえの匂いだ。」

聞いた言葉に驚き、ブワッと顔が熱くなる。
なんだ、この人は。何を言っているんだ。

「まぁ全く同じにならんのはお前の香水の匂いやらが混じってるからだろうが、俺は今のよりこっちの方が好みでな」
「な、なんですか」

よく生徒に見せている顔だ。合理的虚偽とかいって悪戯が成功したかのようにたまに見せるニヤリと笑う顔。
だめだ、だめだ、だめだ。何やらダメな気がする。
逃げられないような、そんな気配がする。

「どうも、好きな女の匂いは覚えるたちでね、なまえから香る匂いはこっちがいい」

後ろは何もない、強いて言えば屋上にある落下防止用のフェンス、それがカシャンと私の横でなる。
横には相澤先生の腕、後ろにはフェンス、前にはタバコを咥えた相澤先生。

「あ、危ないですよ、」
「なまえが火をつけないからな、つけてやろうと思っただけだ」

ジュっとなるタバコの先、その先には相澤先生が吸っていた燃えるタバコ。思わず私は息を吸う、そうすれば私のタバコに火が灯る。
相澤先生は咥えていたタバコをもう片方の手で挟みニヤリと笑う。

「されなくなかったらさっさと戻すんだな。」
「……」

ジッポを渡さなかったのはこのためか、この男。
先ほどよりもぐっと赤くなった顔はもう燃えているのではと思うくらい暑い。
全部全部この男のせいだ。

「意地でも戻しません」
「ほう?」
「またもらえるんでしょう?」

ならばこちらからもイタズラで返してやる。肺に満ちる懐かしい味の煙を目一杯相澤先生に向かって吹きかける。
いつの間にやらケータイ灰皿にタバコをしまった相澤先生はまたもニヤリと笑って私の口からタバコと唇を奪ったのだ。
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