宮 治

「trick or treat……」
「おかし…」
「ジャックオーランタン」
「かぼちゃのパイ食べたいねん」

ハロウィンといえばなんてありきたりな質問を治にすれば全てハロウィンに関する食べ物の名前で完結した。

「治知ってる?ジャックオーランタンて最初はカブだったし、日本で言うと鬼灯のことなんだよ」
「え、植物やん」
「幽霊が持つランタンに火を灯すの。日本だといわゆる亡者が持つ鬼火。それが鬼灯なの」
「初めて知ったわー…」

私の部屋でぐーたらと豆知識を披露すると治はこたつに入り込み机に伏した。
私といえばケータイを開いで友人たちと連絡をとってみたり。各々が休日を満喫していた。
突如治ががばっと顔を上げて目を輝かせはじめたものだから、驚いてしまう。

「ジャックオーランタンつくるで!なまえ」
「何言ってんの」
「中身くり抜いて、中身は、せやなぁかぼちゃのパイ作って。なまえも俺も作れるやろ、なぁ」
「そら、作れるけど…てか、そっちがメインでしょ…」
「さ、かぼちゃ、かぼちゃー」

さっきまでこたつから出ようともせず、ぐーたらぐーたらしていたというのにいざ食べ物となると行動が早い。かぼちゃのパイ作るの?と思いつつ治が片手にもって調べているであろうケータイを除けば本気でジャックオーランタンを作る気である。
その本気具合だけはもはや尊敬に値する。

「って、うそ、まさかほんとにやるの?」
「?」
「いやみて、彫刻刀とか書いてある」
「あるで?」
「いや!手間!!かぼちゃのパイ食べたいなら私が作るから、ジャックオーランタンは諦めて」
「ほんま!?」
「それくらいなら作れるよ…あんたもできるでしょ…調理学校生…」

尻すぼみに伝えれば嬉々として上着を羽織り、スーパーへ急ごうと財布をコートに突っ込んで立ち上がる。
まだ準備が終わっていない私は寒い外へ出るのが嫌でぐずりたいところを治にせかされて立ち上がらせる。

「ほら、早う。早う。」
「待って、治。マフラー…」
「5分歩かんよ、いらんいらん」

かぼちゃのパイと言っていたがきっと気づけば今日の夕飯にかぼちゃの何かが並んで、豪勢なものを作り出してしまうのだろう。
治の食への貪欲さは学校でも有名な話である。

「はー、寒。スープつくるのもありやなぁ」
「なんのスープ?」
「んー、卵!」
「無難だね」

ケラケラと笑ってスーパーにつけば気づけばかぼちゃ以外にもたくさんの食材がカゴの中に山のようにはいっていく。

「ほんま、ツムが今おらんでよかったわ」
「ツムって双子の?」
「おん、おったらこんだけじゃ足りんからなぁ」
「山なんだけど?足りないの?」
「たりひん。」

さー、帰って作ってさっさと食わんとな!
なんて袋詰めが終わって治は口に出す。
家に帰ればすぐ作業に取り掛かってしっかりかぼちゃのパイとその他もろもろがテーブルに並んだ。
その時、治は来年こそはジャックオーランタン作ったる。なんていうものだから、勘弁してくれ。と懇願した。




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