『卒業生代表…──』

もうすぐ春だ、桜が少し咲き始めて木がピンクに色づき始め、暖かいような冷たいようなそんな風が吹く。そんな季節。

校長の長い挨拶に、卒業生代表や生徒代表の長い挨拶、祝辞、段々と眠くなるこの時間に何人の生徒が耐えきれず寝ているだろう。
そんな中ピンと背筋を伸ばして真摯に耳を傾ける人。バレー部の横を通る時だったか、それとも掃除の時か、ちゃんとやんねん。なんて北くんの口からよく聞いた。

『卒業生退場──』


流れる卒業式のテーマソング、あぁ、終わっちゃったんだ。3年間。
涙は出ない、あるのは寂しさと少しの喪失感。悔いがあるかと言われたらきっと沢山ある。もっとこうしてれば、あぁしてれば、たらればばかりで何をどうしたかったがまともに結論が出ない。
でも、今日やることだけはちゃんと決まってる。これだけは、どんな結果になろうとも伝えなければ。
北くんに伝えるのだ。『好き』だと。

「どこだろう、北くん…」

さっきは侑くん達バレー部に捕まっていた。
そうだ、私はあの中でプレーをする北くんに恋をした。バレーをひたむきにそして真摯に向き合う北くんに恋をした。
パタパタと校内を走り回って北くんを探す。教室、裏庭、正門近く、順繰りに回る。
最後にバレー部が使う体育館まで来た、中から響く一つのボールの音。
まさかなと思うものの、少し開いている扉の隙間から中を除く、そこには制服姿の好きな人がいた。

「き、北くん!」
「ん?あぁみょうじさんか、どうしたん」

北くんがボールを投げることをやめこちらをみる。
あぁ、意気地なしなわたしよ、ここで言わねばまた後悔するのだ。後悔するなら言った後にしろ。

「ずっと北くんが好きです!」

「!」

「私と付き合ってください!」

一生分の運を使って、君に好きだと伝えたい。いつも気づけば君を探してた。だっさい嫉妬もした。彼女でも何でもないただのクラスメイトなのに。
3年間この思いを伝えるのに勇気が出なくて、今やっと卒業式が終わって勇気が出たんだ。
伝えたけれど、緊張でわあげられない顔。
北くんはどう思うかな、照れたりするのかな。ふられたらどうしよう。たくさんの感情が渦巻く。

「びっくりしたわ、」
「っ」
「俺もちゃんとせんとなっておもったわ」

やっぱりふられちゃうかな、そしたら今日は泣いちゃうだろうな、友達に電話しよう、慰めてもらおう。

「みょうじさん」
「…っ」
「俺も好きやったよ」

「やから、俺と付き合ってくれへんかな」

その一言で思わず顔を上げて北くんを見れば優しそうな顔をして、笑って私の手を取ってくれた。

「俺が言いたかったんやけどな。もっと早く探しに行けばよかったわ」
「!」
「付き合うてくれるか?」
「私でよければ!」

恥ずかしさと嬉しさと緊張とで私の顔は今真っ赤なんだろうな。でもそんなものを気にしてる余裕なんてないくらいには嬉しいという感情が勝ってしまっている。
春の日差しがやさしく降り注ぐ、北くんに恋をしたこの場所が私の高校3年間の一番の思い出の場所だ。

私はその日から北信介のクラスメイトから北信介の彼女になったのである。


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