『はぁ、まぁ。』

テレビから響く恋人の声、試合後のインタビューに応えてるようだ。ライブ中継だから今彼はこの部屋ではなく、体育館にいる。

「はぁ、まぁ。じゃなくてちゃんとしろって言ったのに。」

佐久早聖臣、今テレビに出ている人。潔癖でクセが強い人。私の好きな恋人。
同棲なんて嫌がると思ってずっと言わなかったのに社会人になって、自分が大阪が拠点のMSBYに所属するからついてこいなんてぶっきらぼうに言われて、同棲?と聞けば何当たり前なこと言ってんの?と質問で返された。私の就職先のこととか考えてないのがこの人らしい。あっという間に私も職場を大阪で決めて、卒業した次の月、つまりは4月から二人で越してきたわけである。

「さ、それより部屋の掃除しなきゃ」

『恋人が待ってるんで、勝たなきゃとは思いますけど』
「!?」

ぐるんと慌ててテレビに向き替える。今この人公表もしていないのに恋人って言わなかった?
ある程度までは隠すって言ってなかった?どうしたの、なんかあったの?

『佐久早選手、恋人いらっしゃるんですね!』
『まぁ、』
『まぁ、ちゃうやろ、こいつ恋人の話俺がするとめっちゃ睨んできよるんですわ。そもそもそんなに隠す気ないやろ、な、臣くん』
『うるさい』

「…」

目が点、口があんぐりあいてしまう。隠す気がないとは知らなかった。隠すって言ってたのに。なんでこのタイミングでこの人がこんなことを言ったのかそんなことは知らないがこれは大事だ。私にとって。
連絡を送らねば、彼はいつ帰ってくる?飾れているカレンダーを見れば明日には帰宅するようだ。私は慌ててケータイを探しにリビングを飛び出た。
テレビの中ではいつのまにか佐久早から宮侑にインタビューが変わっておりいつものように侑を囮にしてインタビューから脱出したようだった。

***

「ねぇ!聖臣!」
『声でかい。なに』
「テレビのアレなに!」
『?あぁ、もういいかなって』
「内緒にするって言ったのあんたでしょ…」

まぁいいじゃん。なんて電話口に話す聖臣はすでに体育館を出たようで街の喧騒が電話口から響く。
少し話を聞けば電話のためにわざわざ外に出てくれたらしい、この人はこういうところに実は気を使える人だったと改めて実感する。

『まぁでもいいじゃん、そろそろ結婚も考えてたし。』
「…そうなの?」
『そうだよ』
「きいてないよ」
『言ってない』

車の喧騒が気付けば駅のホームの喧騒に変わっていてじゃあまた後でと言われて電話を切られた。
あとで、なんで言って切られたがこの人が帰ってくるのは明日である。慌てたってしょうがない。電話を切ったケータイの通知を見れば友人たちから連絡を知らせるポップアップ。
あとで返事しよう。それより先にやることがあると掃除や洗濯に没頭した。
気づけば日はくれ、時刻も19時を回っていた。
夕飯を食べようと冷蔵庫に手をやればガチャリと扉が開く音が部屋に響いた。

「ただいま」
「え、おかえり…明日帰ってくるって」
「そのつもりだったけど気が変わったから帰ってきた」
「あ、そう…」

そそくさと所定の場所に荷物を置いて手を洗いにいつも通り向かう。
その途中なまえはリビングで座って待ってて。なんて言われたのでおとなしくリビングで座って待つことにした。
まぁ大方さっきの電話の続きだろう。
予測はしているものの少しの緊張と不安。佐久早に限ってさっきのは嘘だなんていうこともないだろうし、いやでもまだ先の話だからなんで言われても複雑だ。
悶々と考えていれば手を洗い終わった佐久早に何難しい顔して考えてんの。と言われた。

「いやまぁ、さっきの電話の話とか」
「俺そういう話冗談で言わねぇ」
「知ってる」
「本気で考えてるしじゃなかったらこんなの準備しない」

テーブルに無造作に置かれた指輪ケース。
開かれたそれには小さく光るダイヤモンドはとても可愛い。

「試合とか、練習とか、邪魔になりたくねぇし取れても困るから埋まってるやつにした」
「う、うん。」
「だから結婚しよ」
「うん、、うん、」
「やだ?」
「やだくない、私のこともらってよ」

「俺しかなまえのこともらえないでしょ。」
「そうだよ。」

一生分の幸せをあなたからもらえるから。
わたしはこの先もきっと幸せで生きていける。
この幸せを貴方にも感じられますように。


私をもらってくれますか




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