「あんの、すかぽんたん!!」
「まぁ、怒んなよ」
「おこるでしょう!?なぁに勝手にアルゼンチンの国籍取得してオリンピック出るとか!」
「まぁ落ち着けってなまえほんとに相談なかったわけ?」
「ねぇよ!何、花巻にはきたの?」
「…まぁ」


相談もなく、高校卒業してアルゼンチンに行ってしまった恋人は気づけばアルゼンチン国籍になっていました。キレそう。
及川徹という男は存外バレー馬鹿なのである。それは割と周知のことではあった。過去付き合っていた彼女たちがそれをどう思っていたかはさておき、私よりバレーを実は優先してることは別にどうだっていい。それが理解の上で付き合っているつもりだった。
しかし彼は重大な決断をいつも私にひた隠しにしている。高校卒業後の進路も私が聞いてやっと答え、今回の国籍の件だって知ったのはつい昨日のことだ。それもまさか影山経由で聞くなんて思ってもいなかった。

「キレそう」
「キレてんじゃん」

至極当たり前なことである。私はそしてその嫌がらせとして宮城から東京に引っ越ししたことを及川には伝えていない。
まぁ多分すでに花巻や松川たちが伝えた気がしないでもないけど。
もはや実際のところ私をすでに彼女なんて思っていないのかもしれない。あ、涙出てきそう。
下を向いて、溢れ出る涙を堪えてお酒を煽る。

「花巻、私もうダメかもしれない……」
「おいおい、さっきまでの強気どこいったんだよ」
「だって…だって、及川、私、そんなに信用ないかなぁ」
「いや、そう言うわけじゃねぇだろ…」

すぐ考え込むんだから、なまえちゃん、少しは頼ってよ。いつだったか言われた及川の言葉。今となってはお前だろうが、と私なんかよりお前のが一人で考え込むじゃないか、と言いたい。花巻が就活中なことをいいことに連れ回していつも職場の愚痴か及川の愚痴か。
付き合わせてベロベロになって、何度お互いの家に寝泊まりしたことか。それこそこれも及川に怒られそうだけど、彼にはきっとそんなことも関係ないから知ってるのは花巻だけだろう。

「お前、今日はちゃんと帰れよ。真っ直ぐ。」
「はぁ?まだ飲むし。」
「及川に怒られるだろ」
「怒られん、関係ない」


「あるに決まってるでしょー?なまえちゃん」


「よぉ、及川。」
「やっほーマッキー、久しぶり。ありがとうなまえちゃん見ててくれて」
「今度奢りなー、じゃ、なまえがんばれよ」
「ちょ、花巻!」

じゃあな、と手を振り帰る花巻をいつもの笑顔で送る及川と絶望の顔をしている私。
何だこの地獄の空間は、ていうかなんでこいつここにいるんだ。どうやってここについた。花巻か。まぁそれしかないだろうけど。

「なに」
「なにって、ひどくない…」
「勝手に全部きめて、気づいたら国籍変わってる恋人に私はなんて問いかければいいの」
「えっと…」
「そもそもそんな相談もできないわたしは恋人じゃないものね」


ここはお店の中だ外に出なきゃ。泣いてはいけない、この人の前で。ぐるぐるとかき回す感情が頭を支配する。
戸惑いや不安今まで募ってきたそれらが止めどなく溢れていく涙として溢れ出す。溢れる涙は寂しさか悲しさか、それとも悔しさか。
私の一言の後に何も言わない及川。ずっと下を向いて涙をこぼす私。
無言に耐えかねたのは及川だった。

「その件は、本当にごめん。隠してたつもりもなまえを蔑ろにしたつもりもなかった」

「東京に引っ越したこともマッキーから聞いたし、連絡も俺からばっかりだから寧ろ俺が愛想尽かされたのかと思ってた。」

「だから今日、ちゃんと伝えにきたんだよ」


いやだ、聞きたくない。うそ、聞きたい。
二つの相容れない感情が私を取り巻く。
知ってるよ、君にとっての一番がバレーなことも。だから君の邪魔はしたくない。でも少しだけ私を頼ってよ。ずっと言えない私の気持ちを見透かしたように及川は話し始める。

「なまえちゃんは俺にとって一番大事な人だし、結果が出てから本当は色々伝えたいなぁって思ってたわけ」
「しらんし。」
「話の腰をおらないの!でもその間に愛想つかされちゃ及川さん悲しくて泣いちゃうからさ」
「しらんし」
「ねぇ、なまえ好きだよ。ちゃんとずっとお前が好き」

今度からはちゃんと相談するから、そう言われて顔を上げればいつもなら見せない赤らめた少し悲しそうな顔。

「次はない。」
「わかった」
「私だって、そんな頼りないかとかなやんだ。」
「ごめん」
「言われたところで多分好きにしろっていうけど」
「ひどいなぁ」
「…わたしもちゃんと及川すきだよ」

私も言葉にしなくて、ごめんね。そういう言葉すら意気地なしな私は伝えられないから今度は私が君に連絡するよ。

「よし!じゃあなまえちゃんちに行こう!」
「ホテルは?」
「とってない!…ってなまえちゃん!?」

思わずため息をつく、無鉄砲に突然来るのは少し考えてもらいたい。
でも、君の隣に立つ私はきっと幸せだ。


連絡してもいいですか




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -