07
「ぜっったい遊んでいる・・・。ナイトメアさんは、完っ璧に私で楽しんじゃっている!!」
パロマは目覚めてからというもの、ずっとムカムカしていた。雑巾の入ったバケツを雑に扱いつつ廊下を進む。
「だいたい何なのよ!同僚はみんな銃を携帯しているのに、私はポケットとマントって!!一体何の役に立つっていうのよぉ〜。」
あんなに期待を持たせておいて、マントとは酷い仕打ちだ。せめてポケットの中身は秘密の道具でいっぱいにしておいて、とパロマは地団駄を踏む。そしてそれにも疲れきって、まるで不幸を背負込んだかの様なパロマは、どんよりした空気に包まれながら一つのドアの前で立ち止まった。今は誰もいない時間帯だとは分かっていたが、念の為ノックをしてからドアを開けた。
「失礼します。お掃除に入りました〜。」
中に入ると、何とそこには予想外にも、デスクで仕事をしているブラッドがいた。チラッと上げられた目線がバッチリと合う。パロマはドキっとした胸を押さえて、ノックしてから扉を開けた事に、心底安堵した。
「い、いらっしゃったんですね。お邪魔をしてすみません。時間帯を変えて、また伺います。」
頭を下げてそそくさと出て行こうとすると、ブラッドが片手を上げて止まれの合図を送ってきた。
「いや、特に気にしないから、自分の仕事を続けろ。」
上司にそう言われてしまうと、もはや立ち去れない。
パロマは「は、はい。」としぶしぶ答えて、ぎこちないながらも、掃除を始めた。
書斎兼仕事部屋であるそこは括りつけの書棚が壁一面占めていて、上から下までぎっしり本が詰まっている。緻密な刺繍が全面に施された絨毯は見るからに上等な品、ソファは臙脂色のベロア素材で同系色のクッションが乗っている。暖色系の色で統一された部屋は居心地を最優先に考えられた空間だった。
丁度デスクの後ろを雑巾がけしていると、真横にブラッドの背中があった。パロマはこっそりとその姿を盗み見た。
(すごく綺麗な背中・・・。華奢そうで、でもこの危険な屋敷のご主人様・・なのよねぇ)
この前襲われた時、パロマを囲んだ構成員達がブラッドの姿を目撃するなり、顔面蒼白で脂汗を吹き出しながら震えあがっていた事を思い出す。
けれど、パロマにはそこまで怖い人には到底思えなかった。
しげしげと眺めていたら、仕事をしたままのブラッドがパロマに何気なく話しかけてきた。
「可愛い小鳥はこの屋敷にはもう慣れたか。エリオットは仕事に厳しいだろうが。」
パロマは自分に向けて話しかけていると思えず、雑巾を持ったまま暫し呆けていたが、すぐに焦って体制を整える。
「はい!みなさん良くして頂いています。もっと頑張って、あまりエリオットさんに怒られないようにしたいです。」
パロマはハキハキとそう答えた。
「今度は私の部屋も掃除をしておいてくれないか。丁度係りの者が変わってしまって、今は誰もその仕事に就いていないんだ。」
椅子を回して、ニッコリしながら目線を合わせてくる。慣れない自分がそこまで足を踏み入れても良いのかとも思ったが、上司命令ならば引き受けるしかない。
「はい、分かりました。ボスの自らのご命令ですので、しっかりお掃除させていただきます。」
パロマは若干緊張気味にそう答えて、ペコリとお辞儀をしてから部屋から出て行った。そして後ろを向いていたパロマは、気付いていなかった。
背を向けたパロマを眺めるブラッドは、全く笑ってはいなかったのを・・・。


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