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少しずつ、少しずつ、顔を上げるパロマ。出来る事なら今、まさに、気絶したい。
血を思わせる真っ赤なドレスが、パロマの視界一杯に広がる。
キュッと括れたウエストの前に沿わされた華奢な腕。
その先の滑らかな指が、
そしてさらにその先の真っ赤に塗られた形の良い爪が、
手に持った扇に、ミシミシと食い込んでいる。
(ひぃぃっ!)
パロマは自分が握りつぶされている錯覚に陥った。急いで視線を扇から外す。
さらに視線を上に向けると、寄せられたバストは、はち切れそうに盛り上がって、
非の打ち何処ろのないデコルテラインが視界に入り、
その上には、
「わぁ・・・・」
パロマは思わず感嘆の声を上げてしまった。
それもその筈、パロマが生きて来た中で出会った事もない位、美しい顔表がそこにはあった。
艶やかに輝いた黒髪はクルクルと綺麗にカールしていて、可愛い王冠が斜めにちょこんと乗っている。ドレスにも負けない真っ赤なルージュと、妖艶な口元のホクロが彼女の美貌をより一層引き立て、匂うような色気を醸し出している。彼女が近付いただけで、豊潤な薔薇の香りが辺りに充満した。




この女性こそが、この国の女王ビバルディだった。




ニコッと笑えば、誰だってコロッと骨抜きになりそうな美人が、これ以上にない位憎々しげにパロマの事を睨みつけている。
パロマは違う意味で骨抜きになりそうだった。部分的に言うとガクガクと震える足が。
「おぬし・・・・罪の上に、更なる罪を上塗りしおって。」
初めてビバルディが、パロマに対して口を開く。
手に持った扇をもう片方の手に打ち付け、パシンと鞭の様な炸裂音が鳴った。パロマは自分が叩かれたみたく、肩がビクッと震えあがる。最早、パロマは扇と同化していた。
「よ、く、も、わらわの大事な大事な至宝を・・・台無しにしてくれたな!!首を切り落とすだけでは、気が静まらんわ!!!」
彼女は烈火の如く怒りだした。後ろに控えた兵士達は、自分にも被害が及ばない為にか、首をすくめて女王から大股で一歩遠ざかった。
「な、なななん何の事でしょうか。勝手に忍びこんだのは大変申し訳―――」
「許可も無く口を開くでない無礼者!」
ビバルディのさげずんだ声が、廊下一面に響ひ渡る。パロマは恐い命令に逆らえず、言われた通り口を一文字に貼り付ける。しかし、従順な態度を見せられても向かっ腹が抑えられないのか、ビバルディはさらにギリギリと扇に爪を立てた。
「そんな生ぬるい業ではないぞ!!この薄汚い巾着はおぬしの物であろうが!!!」
ドーンと、まるで検察官が被告人に決定的な証拠を突き付ける様に、ビバルディがとある物を前に突き出した。


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