きっかけはきっと運命だったんだ。
なんて俺らしくないかもしれねぇな。
でも、俺は運命だって思わずにはいられなかった。



たしかあの時は授業が自習だった。
暇になった俺は教室を抜け出していつもは入らない図書室に入った。
そこで会ったのだ。
彼女と。

「今は授業中だよ。」

彼女を一目見たときに感じた言い表せないような雰囲気に俺は扉の前で固まってしまった。
高くはないが低くもない不思議な声で彼女は俺に言った。

「・・・それはお前もだよな。」

やっとのことでそう口を開くと彼女はそうだねと言ってほほえんだ。
学年色のうわばきを見て同じ1年生であることに気付く。

体が弱くて体育は参加できないからと図書室にいる理由を話す口調は普通の会話の延長線であるかのようで。
俺はそうかとしか言うことができなかった。



「ね、桃。」
「なんだ?」

珍しく席にも座らず窓の外の夕焼けを見ていた彼女が口を開く。
窓を背にしてこちらを向く。

「走るのって気持ちいいの?」
「そう、だな。 風を感じられるぜ。」

ふーん、と彼女はもう1度外に目をやる。

「感じてみたいか?」

わかんない、と言うその口調はやはり変化に乏しくて、出会ったころから変わっていない。
変わったのは俺の方だ。
この変化に乏しい口調から、なんとなく彼女の考えていることがわかるようになった。

そう、例えば今なら、感じてみたいってな。


扉に手をかけたところでどこ行くの、と声がする。
くるりと振り返ると彼女はまだ窓のところにいて。
こいよ、と言うと素直にこっちに歩いてくる。

「感じさせてやるよ。 風を、な。」



しっかりつかまってろよ、と言うとちょっと不安げなうん、と声が聞こえた。
力強くこぎだしたペダルには幸せの重さがつまっている。


⇔ スポーツ好きで活発な子


ステキな企画、「逆に」様に提出。

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