女を埋めてきたのだと男は言う。元より身寄りのない土塊から生まれた女だったのだと口を歪めて。
土に戻れば彼女も本望だろうさと欠けた手を振る男を見るに、投げつけた小指も共に埋めたのであろう。
余りにも綺麗に赤く傷口と言うよりは、ただ欠けただけと言うようなその体。死んでしまった相手にならば、本来知る由も無いことであろうに。変な所で律儀と言うか何と言うか。

私の微妙な視線に気付いたのか、「これなら大丈夫だよ。どうせその内元の形に戻るだろうしね」などと皮肉げに笑い腕を振る。
少し遠くを見ながら泥に塗れた手をぞんざいに叩き、背を伸ばす姿は憔悴とは程遠い。

「鬼灯。お前ならどうする」
「どうする、とは」
「僕がお前の目の前で死ぬ真似を見せた所で。骨を折ってまで埋めてはくれる?」

その瞳は真意。能面の様に表情を剥ぎ取った顔に瞳だけが光る。

「埋めませんよ。面倒臭い」
「やっぱり、そうか」
「だって貴方、死なないでしょう。その後掘り返すのに骨が折れそうですから」

そう返してやれば、男は幽鬼でも見たような顔をしてジッと此方を伺う。幼子が初めて見た物を観察するような阿保な男の阿保面に、私は思わず破顔してしまう。

「何ですか、その馬鹿な顔は」

破顔したまま泥だらけの手から傷口を隠す様に手を取れば惚け解け曖昧と徐々に崩れる男の顔。
始めは瞳に膜が張り、段々寄る眉間の皺は何かを堪える様に。震えたような声を絞り出し問うて来る。

「お前、僕の事嫌いなのでは無かったの」
「ええ嫌いですよ。勿論です」
「ならばどうして」
「貴方の。―――貴方の毒が、回ってしまった様でして」

私はもう、騙されるだけでは飽きたようです。中々愉快な遊びではありましたが。そう云って頬を抓ってやればさらに崩れる男の顔の愉快な事!
嗚咽にまみれた男の顔は、空腹にむずがる幼子よりにもなお酷く不細工なその面を見せ血を吐くように言葉を吐く。

「僕は、本当に。お前とだったら死んでやっても良いと思ったし、死んでだってやるのに。指だけじゃなく、全部。お前を貰う為ならば、やるのに。手に入るものならば、手の内に有るもの全て」

そう鼻を啜り涙を流し嗚咽混じりの男の言葉。本気なのだか嘘なのだか。睨むようなその視線に込み上げる物を何と呼ぼう。幸福。否、そんな可愛らしい物ではない。

「要りませんよ。そんな煩わしいもの」

これは欲。
嗚呼やっと、この男は私を見た。

「ならばどう言葉を重ねれば良いのさ」

そう殊更睨む男が余りに可笑しく崩れる顔を何とか保ち、先程の男の真似でもするかのように囁く。

「ならばどうぞ、捕まえて下さい」

私は其れだけで良いのですから。私は貴方に捕まりましょう。無い物ねだりに癇癪起こし、どうぞ腕を伸ばしなさい。私は身を委ねましょう。

男の迷いは一瞬だったか一刻だったか。涙に濡れる瞳を細め震え腕を此方に伸ばす。







「鬼灯、捕まえた」
「はいはい。捕まりました」









漸く正面から伸びてきた腕に私はその身を倒し考える。次にやることは何だろうか。男の鼻水でも拭いてやろうか。

だがもう暫くこの腕の中、この男を掴まえていても罰は当たらないだろう。
私は囲うように男の肩に手を伸ばす。



愚かな話と笑う陰に埋めた女の視線を見る。

羨ましいだろう。
これで私は男のもので、
これで男は私のもの。




―――お前になぞ、やるものか。




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