「貴方、もっと不細工な顔になるつもりはありませんか」
「何だよ藪から棒に。こら、そんなに耳ひっぱんな痛いって」
「ああ、すみません。手が勝手に」
「本当、どうしたんだよ。お前がしおらしいと気持ち悪いんだけれど」

白澤の訝しげな目線を払い鬼灯は眉間の皺を伸ばす。
綺麗な物は目立ってしまうのだ。ただ在る事が難しい。実をつけない奇特な花ならばなおさらの事。物珍しさと好奇心と、自分の庭に植えかたし愛でたくなる独占欲。残るものが無ければ、後腐れも罪悪感も水増しされただただ希釈に滲んでいく。

「貴方がもっと不細工だったらよかったのに」

そうすれば誰の目も届かないところで、ただ眺めていられたのかもしれないのに。嫌悪も感情の動きも何も無く。ただ、無関心を装って欺いて。何をと言われればそれまでなのだけれども。

「何。僕に対しての男前度への嫉妬なら間に合ってるよ」
「貴方、女性関係全般に対して馬鹿ですよね。それ以外も馬鹿ですけれど。いい加減にしないとその顔面すりおろしますよ」
「殴る蹴るよりさらに酷い!?」
「自業自得です」

綺麗なせいで汚され。不埒な輩が徒なす機会が増えるのならば、その奇特さは毒だ。だがしかし、この立場でこの顔でこの性格でこの感情で出逢っていなければ見知らぬ二人のままだったのも事実なわけで。

「詮無き話ですよ。全く。自分で自分が嫌になります」

「本当にどうしたんだよ、お前」そう問いかける白澤の声を遠くで聞きながら。「兎は呑気にお昼寝ですか。羨ましいことです」と鬼灯は寓話を片手に答えの無い問いに対して小さなため息を噛み殺した。

泡がもう浮かばないようにと願いつつ。




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