エックスの端正な顔から段々と笑顔が失われていることには気づいていた。薄い唇は真一文字に引き結ばれ、翠緑の瞳は常に正面を見据えている。暗く苦しいイレギュラーとの戦いの日々は、確実に彼から表情を奪っていった。

「エックス」
「ああ、なまえか」
「隊長になってからずっと休んでいないでしょう。少しは休息をとらないと」
「いいんだ」
「でも」
「オレは大丈夫だから」

 彼の親友であり先輩であり憧れでありかけがえのない仲間であった赤きレプリロイドは、先の戦いにおいてその身を犠牲にしてエックスを救った。
 想像などできるはずがない。シグマの反乱のあいだ、戦闘用でないわたしはベースの奥で傷つきながらも戦う仲間を見守るしかなかった。
 苦しいだろう。つらいだろう。親友の最期を目の当たりにしたエックスの気持ちは、他者が簡単に推し量れるものではない。彼の溜め息や時節小さく呟かれるその名前を耳にするたび、ベースの一室に厳重に保管された頭脳チップのことを思う。ゼロの機体は失われたものの、レプリロイドの人格や記憶を司る、人間でいう「脳」に当たる部分は、辛うじてエックスが持ち帰っていた。
 機体さえあれば。その微かな希望だけが、エックスを前へと向かせているのかもしれない。

「丈夫に作ってくれた製作者に感謝してるよ」
「そうは言っても、ここ一週間毎日のように出撃してるじゃない。流石のエックスも倒れるよ」
「ありがとうなまえ。でも、心配しないで」

 一時期減少していたイレギュラーがまた増え始めている。壊滅的な被害を受けたハンターベースに人手の余裕などあるわけなく、隊長となったエックスには毎日のように召集がかかる。出撃する彼の背中を見るのはつらい。

「あのさ」
「ん?」
「帰ってくるよ、ゼロは」
「……」
「絶対に。ゼロは、死んでないんだから」
「……うん」

 わたしたち以外にだれが彼を信じるの。

「帰ってきたら、一発ずつ思いきり殴って」
「うん」
「『おかえり』って言ってあげよう」

 そうだね、と疲れた顔でエックスは笑う。久しぶりの笑顔だった。今このひとを独りにしてはいけない、このままでは壊れてしまう。
 もう行かなくちゃ。ひらひらと手を振って彼はわたしの横をすり抜けていく。カウンターハンターからゼロのボディの取引について通信が入ったのは、その一週間後だった。


代わりに泣いてあげようか
(20110220)



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