――人間は嬉しいときに笑うらしい。
ブースターの調子が悪いとクイックが訴える。「クイックはいつも機能を酷使しすぎだよ」と呆れたように諭したなまえの口角は上がっていた。
「ねえ、なまえは嬉しいの?」
「へ?」
「だって、笑ってるから」
しばらく考え込んだあと、なまえは「違うよ」と言った。どうやらおれのAIは判断を誤ったようだ。
――人間は悲しいときに泣くらしい。
テレビの前のソファの上で、なまえはぽろぽろと涙を流していた。視線は画面に釘付けのまま、膝を抱えて座っている。
今し方幸せなエンディングを迎えたばかりの映画は既にエンドロールへと移っていて、異国語の歌と共にたくさんの名前が流れていた。
「ねえ、なまえは悲しいの?」
「え?」
「だって、泣いてるから」
なまえは何度か目を瞬かせると「違うよ」と言った。どうやらまた間違えてしまったらしい。
「ごめんね、おれはばかで」
「うーん、クラッシュにはまだ難しいかもしれないねぇ」
睫毛に涙の雫をつけたまま、なまえはくすくす笑っておれの頭を撫でた。おれはなんだか泣きたくなってしまって、なまえの顔を見ることができなかった。
まるかばつか、さんかくか
(20101123)
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