倉庫 - asteroid | ナノ

star ryeyed





私の夢。
幼い頃からずっと追いかけてきたその夢は、大分大人に近づいた今でも、まだ追いつくことができない。
『夢』自体は動いていない。なのに、自分が動くと同時に遠ざかるような、そんな気がする。もう自分では行けない場所に、それはあるのではないか。
だがたとえ叶わない夢だとしても、一生をかけて私はそれを追い続けるだろう。

届かない星に、手を伸ばすように。





「こうりーん!いるだろ?」
「ああ、いないよ」
「いるじゃないか。ちょっと探し物があるんだ」

なんでもない日の昼下がり、私はいつも通りどこか黴臭い古道具屋へと足を運んだ。
分厚い本をぱたりと閉じ、ゆっくりと私が入ってきたのを確認した店主は、これまただるそうに分かりやすい居留守を試みている。眠たげな目をしていたあたり、昼寝でもしたかったところなんだろう。
だからといって帰るなんて気遣いをする気はさらさらない。そのまま中へ入り、壺の上に腰を下ろした。
いつもは用もなく来ることが多いが、今日はちゃんとした用があって来たのだ。香霖もそれには興味を示したらしく、まだ眠たそうな目で私に問いかけてきた。

「探し物?君が用があってここにくるなんて珍しいな」

椅子に座りなおし、ずり落ちてきた眼鏡を上にあげる香霖。
私は少し言い辛いとは思いながらも、店内を見渡しながらこう告げた。

「ああ、その・・・髪の毛に使えるような道具がほしいんだ」
「髪の毛に使う道具か・・・いくつかあった気がするな」

そう言うと、香霖は椅子から立ち上がり、店内に該当する商品がないか捜索し出す。が、どうやらここにはなかったらしく、倉庫の中の商品を確認しに店から離れていった。
一人店に残された私は何もすることがないまま、壺の上で足をぱたぱたさせていた。癖の強い自分の髪を、指に巻きつけて弄びながら。
今日私がここに来た理由は、これである。このくるっくるになっている髪だ。
今までは何とも思っていなかったが、最近になって霊夢や早苗、その他諸々の癖のない真っ直ぐな髪を見ていたら、なんだか自分のこの癖っ毛が気に入らなくなってきたのだ。すぐハネるし、さらさらとは程遠いし、雨の時なんかすぐぼさぼさになってしまう。
そんなことを思っていたところ、どこから聞いたかは忘れたが、幻想郷の外には髪の毛を真っ直ぐにする道具があるらしい。
そこまで新しいものでもないらしく、ならばもしかしたら香霖堂に…と思い、現在に至ったわけだ。

「お待たせ。それらしきものを持ってきたよ」

と、ここまでの経緯やらなんやらを思い出している間に、香霖が店の方に戻ってきていた。私は壺から降りて、道具がある方に駆け寄る。
どっさりと香霖が机の上に置いた物に目をやると、ハサミのようなものからよく分からない機械まで、大体5種類くらいあるように見える。

「これが髪に使える道具なのか?」
「ああ、間違いないよ。ええと、これが髪の毛を巻いたりする道具、こっちは髪の毛の量を減らす道具、そっちが髪の毛を留めておく道具、それが髪の毛を別の色に染める道具で、これは髪の毛を真っ直ぐにする道具だ」

やっぱりあった!

「最後の奴。それだ、それが欲しいぜ」
「これかい?いいけど、使用方法は分からないよ」
「そこらへんに飛んでる妖精に実験してやるさ」

そう言うと、香霖は苦笑いを浮かべる。

「でも、またなんでこれを?」

商品を整えながら、香霖が私に問いかけた。
別に、そんなこと聞かなくてもいいだろうに。言うのが少し恥ずかしい。なんだか私らしくもない理由だし、それに――。

「いや・・・なんか、真っ直ぐになってる髪の毛が羨ましくなった、というか・・・、そんなことお前に関係ないだろ」

無意識に声が小さくなってしまう。

「真っ直ぐな髪、か」

そんな私の言葉に、香霖が呟くように言う。そして唐突に、私の方に顔を向けて小さく笑った。

「魔理沙は今のままでいいんじゃないか。似合ってるよ」
「――!」

・・・・・・ああもう、            。

「っ、じゃあこれ、貰ってくぜ!」
「えっ!?魔理沙、お代は――」
「ツケだ!」

顔が熱い。手が震える。心臓の音が異常にうるさい。
この場から逃げ出したくなって、私は手短にそう伝えると、最速スピードで店を出た。
全く、まったく、なんでそういつもお前は。
はっきりと言葉にできない想いで、心の中がごった返しになる。水に溶けない砂糖が、底に溜まるような感覚。


いつまで経っても、星に手は届かない。






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初東方です。結構前に書いて放置してたものを書き足して完成させました。まりりんかわいいよまりりん。
タイトルの意味は「夢を追う」です。辞書によって違うけど。区切るとこが違う?わざとです。


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