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0と1



※捏造・死ネタ含みます


















今日は、私が一番愛した人間の女の命日。
もう何周忌になるだろうか。訪れた墓は随分汚れていたり欠けていたりで、長い年月をその身で表していた。

「来てやったぞ、一年ぶりだな」

返事はない。ただ、自然の音が変わらず響いている。
何年も何年も繰り返される音。

「元気だったか」

もちろん元気ではないからこうなっているわけだが、それでも彼女ならば、死んでも元気にやっているだろう。
生前の彼女の笑顔が脳裏に浮かんで、釣られて私も笑ってしまった。太陽のような彼女の様子は、今でも昨日のように鮮明に思い出せる。
墓に覆いかぶさるように生い茂る木の葉の隙間から柔らかい光が漏れ、彼女の墓と私に降り注いでいた。
彼女、だろうか。

「なら何よりだ」

私はそう返事をして、花を生け、供え物を墓前に置いた。毎年のことだが、闇の貴公子らしくもないことをするなぁ、と思う。
また来年、と呟いて、私は墓場を後にした。



***



人間はいずれ死ぬ。有限の命、儚いものだ。
だが彼女は生前、それなりに名のある魔導師だった。私ほどではないが強い力もあった。それほどの魔導師ならば、本来の寿命を幾らか延ばす術を使うことも可能だ。
だが、彼女はそれをしなかった。
彼女らしいと言えば彼女らしいが、私にとっては――ただでさえ少ない彼女と過ごせる時間が、さらに少なくなってしまったのである。

彼女の何百倍も永く生きている私にとって、例え彼女が延命したとしても、分厚い本の1ページにも満たない。
しかし、私にとってその部分は、唯一付箋を付けるほど特別なページ。
彼女を本に例えるなら、とっくの昔に廃刊になってしまっている。もう誰の手にも渡ることはない。

だが私は、それを復刊させる程の力があるのだ。

建物を作る、国を作る、世界を作る。私にはそれが可能だ。ましてや本――今の例えで人――を作るなど、造作も無い。
だから、私はもう一度彼女の笑顔を見ることも可能なのだ。
でも、それは本物ではない。
彼女ではあるが、彼女とは全く別のもの。私が命ずれば意のままに動く、彼女に瓜二つな操り人形でしかないのだ。
そんなものは必要ない。

そうだ、昔と変わらない。私が形を変えられず手に入れられるもの。
お前の魂だけあれば、それでいい。

「アルル」





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ぷよ魔導初めて書きましたねー。何気に今年初書きでした。
アルルは延命しないと思いますし、サタン様も何の手も加えないと思います。





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