マクスウェル信仰が根強いニ・アケリアには、代々“巫子”という役職を受け継いできた家系があるそうだ。
 巫子はマクスウェルの手足となり、マクスウェルの世話をする者らしい。今の今までマクスウェルが目に見えもしなかったにも関わらず、社の整備や、外敵からニ・アケリアを守ること、また形式上神官のような立場を務めることで、“巫子”という存在を守りつづけた。
 だから必然的に、人間界に現れたマクスウェルの、大精霊ではできない面の世話は、当代の巫子が努めている。
 ニ・アケリアの人間にとってマクスウェルは神と同義だ。神に仕える人間もまた清められた者でなければならない。
 よってマクスウェルが下界に現れる事もなく、あの祭以降、マクスウェルの姿を見ていない者も多かった。まだ幼子の姿であり、身を守る術を持たないミラ=マクスウェルを護るため、大精霊が社にてつきっきりでいる、らしい。

 昨年の大消失を知れば知るほど、マクスウェル派の大失踪についての意識が偏っていった。この世界――リーゼ・マクシアの歴史書に、捨てられた世界なんて書いていない。エレンピオスなど、リーゼ・マクシアの歴史に一片も載っていない。全ての始まりはリーゼ・マクシアの創生から。三年前も、二千年前も、マクスウェルにとっては己の目的を遂行したに過ぎない。創造主の加護さえも失われた世界が、自分の故郷、エレンピオスなのだ。
 リーゼ・マクシアの歴史に依ると、二千年の間にマクスウェルが降臨したことはないらしい。ではなぜ今、人のより代を造ってまで降臨したのか。見えない壁の向こうにはきっと希望があると言われてきた。エレンピオスの人々はずっと、次元すらも違うマクスウェルを探していたのに。

 きっとまた、マクスウェルは何かをするんだ。それはきっとエレンピオスにとって良くない事だ。現に俺は、引きずり込まれたリーゼ・マクシアに、歓迎されてないじゃないか。

 久しぶりの休みも、アレイスは外に出る気などなかった。昨日から、なんとワイバーンという魔物の世話まで手伝うことになっている。代々巫子が飼い馴らしていると聞き、そんな馬鹿なと一蹴したかった。幼体とはいえ、しこたま打ち付けられた腕や足は、もう動けないと一日で根を上げた。

 街道を行き来し、魔物の世話をするのだからと、剣術も教えられることになった。力は身につけておいて損はない。いつか一人で家族を探しに行くんだと、周り以上に打ち込んだ。

 村人もあちらから声をかけることはなくなった。自分の声などすっかり忘れた。けれどこの家も毛布も食事も、ニ・アケリアの人々が与えてくれたもので、アレイスにはどうしようもなく重たい。
 外の喧騒を遮断する様に、薄い毛布に包まって眠る。巫子の家に長子が宿ったと、外から柔らかな歓声が聞こえていた。






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