「え……?」


 靄だった。

 生き物のように蠢いて、ソレは私の胸からおどろおどろしく立ち込めていた。
 闇が、溢れ出してーーーー


 悲鳴も上がらず、言葉にならない息が口から漏れた。
 痛みはない、けれど何かが肥大していく圧迫感が身を苛む。
 堪らず体を抱きしめた時、ガチャリと戸の開く音が、嫌にホールへと響いた。

 ……ああ、扉の鍵、まだかけてなかったっけ。
 やだ、こんな気持ち悪いの見られたら、お店に悪い評判がたっちゃう……。



「あの人から何か出てる!」


 女の子の、場に似合わぬ明るい声がして、のろのろと顔を上げる。
 一瞬遅れて目を見開いたのは、目玉まで膨張してしまったからだだろうか。
 そんなの、かわいくないし、嫌だなぁ。


「ルドガー、彼女が?」

「ああ……」


 はっきりと頷いてしまう、青いシャツに、黒いボトムの青年ーー間違いなく、ルドガーさん本人らしい。
 ルドガーさん、いつの間に黒メッシュなんか入れたんだろう。
 かっこいいけど、月の光に輝く銀髪が、私はとても好きだったなあ、なんて。

 隣にいる人もよく知っていた。きっとエレンピオスの人はみんな知ってる。
 テレビや報道誌の中の人と、ルドガーさん、友達だったんだ。すごいなぁ。
 一緒にいる女の子は誰だろう。ツインテールが愛らしくって、ルドガーさんと同じ瞳の色がとってもきれい。
 ちょっとどけ、羨ましい。……ちょっとだけよ。本当に。
 私はそれが欲しいんじゃなくて、願わくば、そばで見ていたかったの。

 でも可笑しいなあ。……ルドガーさん、厨房に行ったはずなのに、どうして外から入ってきたんだろう?
 水、もう飲んできたのかな。それならいいや、さっきの話の続き、話せるもの。
 私の返事を聞いてもらわないと。

 力が入らなくて、ぼんやりと、歩み寄ってくる人たちを見つめる。
 今日が天気の良い夜で良かったと思った。
 なんだか霞んで見えないけれど、貴方の銀髪が、とても良く映える。

 闇がやってくる。槍が振るわれる。
 世界を呪いながら。羨みながら。
 ただ一つの光を求めて。



「ーーアリアッ!」

「えっ……?」


 今の声は誰だろう。二つとも、なんだかとっても似ているわ。
 もちろん恐怖はあったけれど、蝕まれた体は動かなくて、まあ、結果的に良かったのだ。
 最期にまたあなたを見れた。





'140521





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