──はじめまして。私はユーリア。ユリウス室長と同じ、クランスピア社の分史対策室エージェントだよ。みんなに同行して、室長を探しつつ、時々自分の任務も熟させてもらうことになります。
「よろしく、ユーリアさん。ユーリアさんも、ルドガーと同じ力が使えるんだね」
──私は末端も末端だけどねー。けど、それなりに戦えるから、どんどん頼りにしてよね。
──ナイス連携! 息ぴったりだったね! ありがとう、ジュードくん!
「こちらこそ。いつも、ユーリアさんがフォローしてくれるから、安心して戦えるよ。複数人での戦闘って慣れてるの?」
──うん、イメトレでね! 私たちエージェントは基本単独任務だから、実は団体行動って羨ましかったんだよね〜。
「イ、イメトレ……」
──あはは、半分は冗談。けどそれこそ、ジュードくんが、私を信じて立ち回ってくれるからだよ。これからもよろしくね!
──私、絶対にやり遂げたいことがあるの。正直私には、かなり難しいことかもしれないけど……それでも、私自身が望んで、決めたの。……無謀だと思う?
「……すごいよ、ユーリアさん。ユーリアさんと話してると、僕ももっと頑張ろうと思える。貴女の姿勢は、見るの心を動かすんだ」
──それはお互いさまだよ、ジュードくん。君が諦めずに研究を続ける姿は、みんなの……私の希望だもの。目標を遂げられるように、一緒に頑張ろうね。
「ねえ、ユーリアさん。ユーリアさんは、旅が終わったらどうするの?」
──私? 私はねー、リーゼ=マクシアとエレンピオスの橋渡しをしたいな。お互いの偏見を減らして、意見が違うならしっかり話し合う。そう思ってくれる人を増やしたい。
「話し合い、か。何が同じで、何が違っているか、それも分からないから怖く感じる。まずはお互いを知るところからだよね」
──そうそう。私とジュードくんが分かり合えたように、ね〜! なーんて……。
「うん。きっと、エレンピオスもリーゼ=マクシアも、歩み寄れるよ。僕たちみたいに、ね」
──……ジュードくんってそういうとこあるよね……ほんとずるいよね……。
「え?」
──ごめんね、ジュードくん。私、もう動けないみたい。もう少しでいろんなことに決着なのに……情けないね……はは……。
「そんな、ユーリア……! どうして、こんな状態になるまで隠してたんだ……!」
──ルドガー達にだけ、無理はさせられないよ。使えるものは使っただけ。言ったでしょ、絶対にやり遂げたい事があるって。オリジンの審判を超えて、私の大好きな人たちが生きる世界を、守りたかったの。
「それは僕もだよ! 人と精霊が共存して、豊かな土地を取り戻して……ユーリアさんがいる今を、必ず守ってみせるって……!」
──うん、知ってるよ。貴方が、身を粉にして努力し続けていることを、私は知ってる。だから……
──いってらっしゃい、ジュードくん。私、おかえりって言うから、絶対に帰ってきてね。
「……うそつき」
精霊は眠らない。代わりに、ぼうと思考を止めていると、根底で眠っていたらしい何かが、やたらと鮮明な寝言を言うようになった。
私の大切な人が、少し幼い顔を綻ばせて、心から笑っている。驚いている。悔しがっている。深く深く悲しんでいる。
彼の愛を知っている。
彼の熱意を知っている。
彼の決意を知っている。
彼の悲しみを知っている。
そんな彼を、いとしいと、思う。
──けれどそれは、誰の心だろう。
「……うそつきのくせに、うるさいよ……」
毛布を頭からかぶって、朝日から逃走を図る。
耳鳴りは、まだ止まない。
’180406
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