私の両手に乗せられたのは、夕焼けを溶かしたような丸っこい食物だった。触り心地は少し柔らかくてみずみずしい。それから、ほんのりと甘い香りがする。
 これを私に渡してきたひとの顔をちらりと見る。いつもの白衣に袖を通しながらも、ジュードさんはなんだかとっても嬉しそうだ。


「なにこれ? ……食べ物?」

「パレンジっていう果実だよ。別名キャンドル・フルーツ。とっても美味しいから、ぜひウィリスにも食べてもらいたくて買ってきちゃった。そのまま食べられるから、よければ食べてみてね」

「モグッ。……美味しい!! わっ美味しい! 甘みと程よい酸味のバランスが最高、そしてこの肉厚な果肉!」

「ふふ、よかった。パレンジが美味しくなるように、果樹園では『収穫の歌』っていうのを歌うんだそうだよ。いっぱい歌ってあげると、パレンジが甘くなるんだってさ」

「もぐもぐペロッ……ふーん……それって、ただ果実が熟すまで歌でも歌って待てってことじゃなくて?」

「ああ、うん、身も蓋もないね……けど、そうして丹精込めて作られた特産物だよ。お酒なんかにもなってるみたい」


 基本的に熟してから採るので、長持ちはしないらしい。代わりに完熟したパレンジは大変美味で、エレンピオスでは高級品なんだとか。最近は源霊匣でものを凍らせる技術が生まれたことにより、世界にどんどん広まっている、とのこと。
 しかし、お酒。……お酒かー。

 もう一度、ジュードさんをチラ見してみる。私が急に黙ったので、首をかしげるジュードさん。
 お酒を飲むと、人は開放的な気分になってとっても気分が良くなるんだって、髭の人が言ってた。壁を取り払い、もっと仲良くなれるステキなアイテム、それがアルコール。だとかなんとか。


「……ねえ、精霊ってお酒飲んでもいいの?」

「えっ!? ど、どうだろう? 僕の知ってる精霊は、すごくお酒に弱かったんだけど……」

「ふーん? ……ジュードさんもお酒飲めるんだよね? ね、今度一緒に飲んでみない?」

「うーん……まあ、一人じゃないし大丈夫かな……? それなら、せっかくだしみんなも誘ってみようか」

「おお、飲みニュケーションとゆーやつですな。やたらと酒を勧める上司と苦手な部下……もしくは無礼講しすぎる部下と世話役上司の仁義なき戦いが繰り広げられる舞台……!」

「どこでそんなこと覚えてきたの……!? あ、いや、だいたい予想つくけど」


 苦笑するジュードさん。その瞳もパレンジに負けないくらい綺麗だなぁなんて思いながら、大きな口で果実をかじった。なんとなく、さっきよりもずっと甘かった気がした。



′170412

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