「先輩、好きです」


それは、とても晴れ渡った日のこと。

同じ委員会で仲良くなった3年生の彼に、あたしは恋をしていた。自分で言うのもなんだけれど、わりと可愛がってもらっていたと思う。サッチ先輩が言うには、彼は年下があまり好きではないらしい。確かにあたしは彼より年下だけど、でもだとしたらわりと脈有りじゃないだろうかと心踊ったのは一週間前。だって、目が合うと笑ってくれたり、すれ違うときには「よぉ」なんて声をかけてくれたり、購買で会うと何か奢ってくれたり、この前なんて裏庭でのサボりが偶然重なって、そのままコンビニ行こうってなったときに自転車の二人乗りまでしたんだから。これは告白したら「俺も前から気になってたんだよい」なんて言われてハッピーエンド!っていうオチに決まっている!サッチ先輩もお前なら大丈夫だって言っていたし!意を決して告白しようとしたはいいが、なかなか先輩と会わずに一週間が過ぎた。放課後、あたしは図書室に忘れ物をしたことに気付いて取りに行ったらなんとマルコ先輩が一人で本を読んでいるではないか!しかもめめめ眼鏡だと…!噂では授業中しかかけないらしいからあたしは眼鏡をかけた先輩を見るのに半分諦めていたのに。こんなところで見られるなんて、って、そうじゃない。今は図書室に一人きりで本を読んでいる先輩がいるっていう状況に注目しなくちゃいけない。だって、放課後の図書室って、定番じゃん!あたしは勇気を出して先輩に声をかけた。おう、お前か。なんてにっこり微笑まれたらたまったもんじゃない。あたしは自分の気持ちを素直に言葉にした。

なのに、彼はあたしの決意を嘲笑ったかのようにこう言い放ったのだ。


「俺、年下に興味ねえんだよい。ましてやお前みたいな貧乳ありえねえだろい」


なーんて、いつものセクスィーな笑顔で、冗談を言うように笑いながら言われたらあたしだって、さすがに、



ぶちギレた。



「サッチ先輩の嘘つきぃぃぃぃいい!!!」

「え、それマルコにじゃなくて俺にぶちギレんの?なんで?つーか3年の教室に大声で飛び込んでくるなんて度胸あんな」

「サッチ先輩が絶対マルコのやつもお前のこと好きに決まってんだろとか言うからぁああ!すっごい決め顔で告白してきたのに!!お前みたいな年下貧乳ありえない?ふざけんなぁぁあああ!!」

「マルコもヒデェこと言うなあ。脈ありだと思ったんだが。やっぱり巨乳は譲れねえか」

「そこ!?やっぱりそこなの!?言っときますけどあたしの胸だって言われるほど小さくありません!」

「アイツの元カノは全員スタイル抜群、外見良しのEカップ以上はあったな」

「キィィィイイ!!」

「確かにそれに比べりゃあ、こいつなんてちんちくりんか」

「はっきり言わないでください!泣きそうになる!!」



Eカップお姉さんに比べたら、確かにあたしなんかちんちくりんかもしんないけど。だからってあんな言い方はないんじゃないだろうか。
だってあたしはこんなにも先輩が好きなのに。もちろんフラれる可能性を考えてなかったわけじゃない。それでもあんなフり方はあんまりだよ。


「ふざけんな!マルコ先輩のばーか!パイナップル!無精髭!そんなとこも好き!」

「一人言かもしんねえけど、後ろ」

「お前、俺とサッチが同じ教室ってこと分かっててサッチに愚痴りに来てんのかよい」

「ひっ、マルコ先輩!」

「こっぴどくフってやったのに立ち直り早いねい。一日あったら俺の悪口言えるほどかい」

「自覚あったんだ!ていうかフラれてません!!あんなフラれ方、納得いかない」

「お前さあ、期待させといてそれはねえだろ」

「そうだそうだ!サッチ先輩の言う通り」

「俺の勝手だよい」


そう言って先輩は教室から出ていってしまった。ダメだ、すごく泣きそうだ。鼻がツンとする。


「……ふぇ」

「おいおい泣くな泣くな!俺が泣かせてるみてーだろが!」

「サッチの女泣かしー!」

「中途半端に登場してくんなエース黙ってろ!」


ひどい、先輩。こんな冷たい人だったのか。

なんてね。先輩がすごく優しい人だってのはちゃんと知ってる。だって、告白する前はすごく綺麗な顔で笑ってくれた。告白してる時だって、言葉に詰まってるあたしをちゃんと見守っててくれた。何も言わずに、あたしの言葉を待っていてくれた。先輩は優しい。

あたしは、諦めない。


「サッチ先輩、あたし、マルコ先輩のこと」

「…諦めんのか」

「誰が諦めてやるかばーか!!」

「よーし、それでこそお前だ」

「絶対Eカップになって振り向かせてやる」

「うん、Eカップは応援できないけど、まあがんばれ」

「じゃあマルコ先輩にこの決意伝えてきます!」

「行ってこい」


ありがとうサッチ先輩!そう言ってあたしは教室を飛び出す。先輩、どっちにいったっけ。たしかこっちの方。どこ行ったかなんて分かんなかったけど、でもあたしは自然と足が裏庭の方へと向かっていった。たしか前に、マルコ先輩が裏庭はお気に入りの場所だって言っていた。あたしのラブセンサーが先輩はそこにいるって言っている!


「――って、いないじゃん!」


来たはいいものの、そこはもぬけの殻。誰もいなかった。
うそん。これは確実にいるパターンでしょ。だってあたしのラブセンサーが、ええええ。テンション下がるわぁ。なにがラブセンサーだよ、ダメセンサーじゃんか。


「何してんでいお前」

「その声はマルコ先輩!」

「さっきまで教室にいたろい。瞬間移動か」

「マルコ先輩を追いかけてきました!」

「そんで俺よりここに早く着くなんてアホ丸出しだな」

「すごいあたし!マルコ先輩が行く場所を察知した!」

「怖ぇーよばか」


ほら、まただ。先輩はすごく優しい笑顔であたしの頭をくしゃっと撫でる。普通あんな冷たくフった相手にこんなことしないよ。先輩は優しい。


「先輩!」

「なんだよい」

「あたし、諦めませんから!」


ハッキリと宣言すると、先輩は数秒目を丸くしてから、ニヤリと笑った。ははって、声を出して笑った。


「あたしEカップになって先輩振り向かすって決めましたから」

「なんでそんな俺に執着すんだよい」

「だって好きですから。彼女になりたいし」

「…そうかい、頑張んな」

「ねえ、あたしが先輩好みになったら、付き合ってくれる?」


そう聞くと、先輩は一言「そうだねい」って言って、あたしをちろりと見た。目を輝かせて先輩を見つめると、またしても先輩はニヤリと笑った。色っぽいなあ、なんて考えてるあたしは変態だろうか。すると、急に先輩はあたしの目の前に立った。額に、温もり。



目を閉じることさえ出来なかった



(これの続きくらいは考えてやるよい)
(…絶対振り向かせてやる)




thx:愛ほし、君と