お医者さんはもういつ産まれてもおかしくないって言った
でも、それでも僕には産まれるまでの数日間ナマエに付き添うことすらできない
『いいよ、マスターなんだもん、クダリがいないとみんな困るでしょ?』
私は大丈夫だから、ってナマエは笑ったけど、大丈夫なはずない
定時ぴったりにあがって面会時間のぎりぎりまで一緒にいるけど、その短い間でさえ、ナマエは何度もつらそうな顔を見せた
体力をつけるために食べ物を食べなきゃいけないのに、いらない、食べられないの一点張りで、しょうがないから無理やり食べさせたら吐いちゃって、僕はお医者さんにひどく叱られた
ナマエのそんな苦しい顔見たくない、全然見たくない、痛いのも、苦しいのもつらいのも気持ち悪いのも、できるなら全部僕が代わってあげたい
「ナマエがつらいの、全部僕のところに来ちゃえばいいのに」
「えー、クダリじゃきっと耐えらんないよ」
「むー…」
「ふふ、それにね、私、今幸せだからいいの」
「…僕、ずっとは一緒にいられないのに?」
「クダリはずっと私のこと考えてくれてるでしょ?それに、クダリの赤ちゃんがずっと一緒にいてくれるもの、なんでも耐えられるよ」
クダリは優しいね、クダリの赤ちゃんが産めて、嬉しい、ありがとう
ナマエが目を細めてそう言って、僕の目から涙が溢れ出す直前に面会時間は終わった
『奥さんの陣痛が始まりました』
翌日の昼頃だった
ナマエはもう分娩室に入ったらしい
仕事は全部ノボリに任せて、僕は病院までの道を必死に走った
ナマエはきっと泣いてる、そんな気がした
早く行かなきゃ、ナマエの隣に、僕が行かなきゃ
道のりの半分くらいまで来てから、アーケオスに乗って行った方が早いことに気づいて、そんなことも忘れるほど自分がしょうもないくらいに焦ってることに苦笑した
「アーケオス!病院までお願い」
「ナマエさんの旦那さんですね」
「うん、ナマエは?」
「今は分娩室です、ご案内します、奥様は今つらいでしょうから、付き添って励ましてあげてください」
「わかった、ありがとう」
消毒とかなんか、よくわかんないいろんなことをしてから、僕は看護師さんに連れられてやっとナマエのいる部屋に通された
扉を開くと、とんでもない叫び声がした
「うっ、うあっ、っつうう!ああっ、痛いよお!!」
「お母さん、ちゃんと息して、はい、吸って」
「っナマエ!」
「く、だり?」
「うん、ナマエ、来たよ、もう大丈夫だよ」
「くだ、り、よかった、」
「お父さん、こっち来て、お母さんの手、握ってあげてください」
「うん、わかった」
「くだり」
「どうした?」
「ありがと、ぎゅって、してい、い?」
「うん、僕ちゃんといるから、ぎゅってして」
ナマエは僕の手を痛いくらいに締め付けてきたけど、ナマエの痛さはきっとこんなのと比べものにならない
我慢強いナマエがあんなに叫ぶくらいだから
僕には、十分頑張ってるナマエに、頑張れ、頑張れ、って言うことしかできない
僕らは夜通し分娩室でナマエを見守った