僕がお父さんになった日 | ナノ
「クダリ!クダリ!急ぎなさい、先ほど連絡が来ました!」
「わかってる!」
「仕事のことは何も気にしないで構いません、きちんと付き添って差し上げるのですよ!」
「ありがと、ノボリ!行ってくる」
「お気をつけて!」

サブウェイの外では悪目立ちするコートも帽子も何もかもそのままに、僕はステーションを飛び出した
タクシーを呼べばいいんだろうけど、それを待っている時間すらもったいなくてただ走りつづけた
こっちの方がきっと早く着く


『奥さんの陣痛が始まりました』


ナマエの入院している病院からの連絡は僕のライブキャスターにも入った
そのとき僕はスーパーダブルでバトルしてたから電話を取れなくて、ノボリの方に先に連絡がいったらしいけど
僕より先に知っちゃうなんて、気に入らない!
でもノボリは優しいから、何も気にせずに行ってこいって言ってくれた


『クダリ、私、妊娠したみたいなの』


夕ご飯を食べてる時に、僕の向かいに座るナマエはまるでテレビの話でもするみたいに、思いついたように唐突に言った

「え?」
「だから、クダリの赤ちゃんが、お腹にいるみたいなの」
「…え、ほんと?」
「なんでクダリにこんな嘘つかなきゃいけないのよ」
「…いつわかったの」
「…最近、ずっと吐いてて、もしかしたらと思って今日病院に行ったの」
「………」
「……そしたら、妊娠三カ月です、って」
「………」
「………クダリ?怒った?」

突然はじけたみたいにいろんなことが起こりすぎて僕の頭はパンクしそうだった
さらにナマエが怯えたようにちょっと震えて僕を伺うように見ながらそんなことを言うから、僕は余計に驚いた

「…ナマエ、ちょっとこっち来て」
「…うん」

テーブルを挟んで僕が座ってるソファーにナマエを呼び寄せる
ナマエはやっぱり怯えた様子でテーブルを回って僕の隣にちょこん、と座った

「ナマエ」
「はい」
「なんで怒ったと思うの?」
「…だって」
「だって?」
「…だって、クダリが何にも言ってくれないから、赤ちゃん、欲しくなかったのかと思って」

呆れた
そんな理由だなんて
僕はまだ膨らんではないナマエのお腹に手を置いてさすりながら、顔を近づけた

「こんなお馬鹿なママだけど、パパはかっこよくて強いから安心して育つんだよー」
「なっ何てこと言うの!信じちゃったらどうするのよ!」

ナマエは急いで自分のお腹に向かって、そんなことないからね!と訂正を始めた

「ナマエ、僕今ちょっと怒ってる!」
「え?」
「…僕、赤ちゃん欲しくないなんて言ってないでしょ?そんなこと気にするなんて、ナマエってほんとにお馬鹿」
「なっ!」
「ナマエ」

僕はぎゅって安心させるようにナマエを抱きしめた

「ナマエ、僕すっごい嬉しい」
「………」
「ナマエとの子どもができるなんて、これ以上嬉しいこと、ない」
「………」
「ナマエ、」

ナマエも、この子も絶対に幸せにしてみせる
僕の子ども、授かってくれてありがとう

そう言ったら、ナマエはとうとうぼろぼろ泣き出してしまった
ナマエは僕の肩口で涙を拭う
地味に冷たいけど、今は許してあげる

「男の子かな、女の子かな」
「まだ、そこまではわかんないよ」
「ナマエに似て、ちょっと抜けてるけど可愛い子になるね」
「クダリに似たら、笑顔の素敵な子になるよ」
「そうだ、名前はどうしよう!」
「男の子か女の子かもわかんないのに、まだ早いよ」

くすくすと笑うナマエの体はもう震えてなかった
家族が一人増えるんだなあ、って思ったらふわふわした幸せな気持ちになって、余計にナマエが愛しくなって、お腹を押さないように気をつけて、もっときつく抱きしめた
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -