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翌日の講義には全くと言っていいほど身が入りませんでした。
わたくしは授業を耳に入れることを諦め、三講目からは欠席、いわゆるサボりですが、いたしました。


夕方。海の見える街。
我ながら笑ってしまうほどロマンチックなシチュエーションを選んだものです。

クダリが本当にそうするのか、つまり、クダリが本当に今日の夕方にあの街のあの高台で彼女とある節目を迎えるのか、わたくしは現実的な意味では知りません。わたくしが持っているのは、非現実的で馬鹿馬鹿しい、しかし非常に確固とした妄想でした。



今朝目を覚ましたときに、わたくしはまず、自分が毛布に包まれていないか、二段ベッドの上段に横たわっていないかを確認いたしました。入念に。

今日はわたくしが二度の人生で、初めて生きる日なのです。消えかけのろうそくのように頼りなく細々として、しかし確かにまだそこにあった予言の能力が、吹き消されるように完全に、跡形もなく失われた日でもあります。

今日、何が起こるのか、わたくしは全く知らないのです。


ふとわたくしは、今日くだんの街に足を運んでみようと思い立ちました。

冷やかしでも嫉妬でもない、自分でもよくわからないこの感情に敢えて名前をつけるのだとしたら、好奇でしょうか。
あの日わたくしがどうなるべきだったのか、わたくしは知りたいと思いましたし、知らなければならないような気さえしたのです。




午前のうちに目的の街につきました。そう遠くない街です。

わたくしは手頃な喫茶店に入って、軽食を注文しました。

わたくしがあの日、待ち合わせに使った駅がこの店からはよく見えます。
夕方まで居座るのは迷惑かとも思いましたが、こぢんまりとした店にはわたくしのほかに一人の女性しかおらず閑散としておりましたので、気兼ねなく持ってきた文庫本を開きました。

昼時になっても店には二、三人しか客は入りませんでした。他人事ながら経営が心配になるほどです。
入って出て行く客の流れの中ではじめにいた女性とわたくしだけが一向に店を出て行きませんでした。店主もわたくしたちをほとんど気にもかけていないようです。

わたくしたちは背中を向けあって座っていましたし、女性の方も一心不乱に本を読んでいたようなので、互いに特に意識することもありませんでした。世の中には平日の昼間から潰れかけの喫茶店の濃くてまずいコーヒーで文庫本二冊分は居座る種類の人間が、少なくとも二人はいることがわかりました。



五時半前になってクダリが駅につきました。

クダリはきょろきょろとあたりを見渡した後、駅前の抽象的で奇妙なモニュメントの前に立ち位置を落ち着けました。

帰宅ラッシュにはまだ早いのか、それともそこまで栄えている駅ではないのか。会社員風の人がばらばらと往来するばかりでその中で若く背の高いクダリは割と目立っていました。
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