オブラートに包まれていないその問いは、あまりにも核心をつきすぎていて、私は動揺を隠せなかった
「私、は」
「義姉さんがノボリに会いたくて仕方ないんだったら、僕は今すぐにでも会わせてあげられるよ」
「ノボリ、さん…」
「義姉さんは、ノボリといて、幸せ?今、ノボリと会いたい?」
「…」
「僕にはそうは思えないんだ」
「あ…」
「…お願い泣かないで、ナマエ」
クダリくんは立ち上がって、座っている私のところまで来ると、ごめんね、と私の頭を胸に押しつけるように抱きしめた
「ナマエの気持ちが落ち着くまで、ここにいればいい」
僕はナマエの味方だから
それは今の私にとって甘すぎる誘いで、実質答えなど一つしか与えられていないようなものだった
◇
「お風呂先に入っていいよ」
「そんな、悪いよ」
「むー、ナマエ、僕に遠慮禁止ね!」
「でも、それに、着替えもないし…」
「あー、そっか、じゃあそれはどうにかするよ」
「え?どうにかって」
「はい、行った行ったー!」
「ちょ、ちょっと」
「それとも、その可愛い服、もしかして自分じゃ脱げない?」
「ぬ、脱げます!」
顔を赤くして脱衣所に駆け込んだナマエを見届けてから、財布を持って立ち上がった
『おかえりなさい』
その言葉が僕に、僕だけに向かって出されたものだと思うと、僕はこれ以上ないくらいに満たされた
ナマエは真面目だから、ここを開けっ放しにしてどこかに行ってしまうとは思ってなかったけど、まさか夕食まで準備してくれてるとは思わなくて、すごく驚いた
ナマエが僕のために作ってくれたんだ
誰にもやらない
玄関を開けて、しっかりと外から鍵を閉めた
「クダリくん、お風呂ありがとう、それに」
「わー!やっぱり似合ってるよ」
ほかほかあったかいナマエにぎゅーって抱きつく
しっとり濡れた髪をやんわり梳いて、もう一度ナマエを見た
「かわいい」
「…ありがとう、でも、お金…」
「もー、そんな野暮なこと言わないよ!」
「そんな」
「僕が着てほしくて買ったの、もらってくれる?」
「…ありがとう」
にぎやかなライモンでも遅い時間に開いてる店はあまりなくて、アーケオスに頼んでR9まで飛んでもらった
買ってきた白いワンピースタイプのルームウェアは少し幼く見えるけど、自分でもいい買い物をしたと思う
その下には、僕が買ってきた下着もつけてるんだろう
そっとそれを脱衣所に置いたときにドア越に見えたナマエのシルエットが目に焼き付いていた
俯いたナマエの頬はお風呂上がりだからかきれいに色づいている
「着てた服、クリーニング出しちゃった」
「何から何までありがとう」
「どういたしまして!」
「クダリくんもお風呂入る?」
「うん、行ってくる」
ナマエからふわりと僕の使ってるシャンプーの匂いがした
「お風呂出たよー」
「あ、うん、コーヒー飲む?」
「飲む!」
「淹れてもいい?」
「お願いー」
「あ、クダリくん、床濡れちゃってるよ」
「ほんとだ」
やかんを火にかけて、ナマエはぱたぱた歩いてきた
「風邪引いちゃうよ」
ぐっと背伸びして、肩にかけたタオルで僕の髪をふくナマエの顔をじっと見る
ナマエ、ナマエは僕のこと、優しい義弟だと思ってるのかな