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頭痛がひどくて目が覚めた

部屋の中はオレンジ色に染まっていて、ライブキャスターを見ると時刻は午後4時を回っていた
大変だ、泣き疲れてか9時間近くも眠ってしまっていたらしい
机にうつ伏せになるという酷い姿勢で寝ていたせいで、体中のあちこちが痛い
急いで買い物に行かなければ、今日はもう凝ったものは作れそうにない

いや……ノボリさんが遅くなると言った日は大抵日を大きく跨ぐから、夕食なんていらないし、いつも余って捨ててしまうのだけど
万が一のときのために、毎日定時までには夕食を作り終えるようにしているのだ

髪を適当に整えて慌てて家を出ようとすると、かばんの底でライブキャスターがけたたましく鳴り響いた
少しの期待を持って、ライブキャスターを取り出す
画面には“着信:カミツレちゃん”と表示されていた


「もしもし、カミツレちゃん?」
「もしもしナマエ、久しぶりね、元気かしら?」
「うん!元気!わあ、久しぶりにカミツレちゃんの声聞けた」
「あら、今玄関?出かけるところだったの?」
「うん、ちょっと買い物にいこうかな、なんて」
「こんな遅くに、珍しいわね、それより今日の夜は暇?」
「特にこれといって用事はないけど…どうかした?」
「空いていたら、一緒にディナーに行かないかしら?少し、ナマエと話したいことがあるの、」
「カミツレちゃんとディナー…ぜひ、行きたいんだけど、ノボリさんにも一応確認してみるね」
「…ええ、お願い」
「じゃあ、折り返すね」


カミツレちゃんはずっと私の顔を見て何か言いたげだった
泣いて顔がむくんでしまっていたかもしれない、モデルさんだからそういうのには鋭いのだろう
ライブキャスターを右手に握り、とりあえずリビングへ引き返す
発信履歴の一番上にある“ノボリさん”を表示し、電話をするかしないかで真剣に10分ほど悩んだ
電話して、何と言えばいいのか、ノボリさんに迷惑じゃないか、そもそも彼は出てくれるのだろうか
不安で仕方無かったけど、忙しいカミツレちゃんをあまり待たせるわけにはいかない
ひと思いに通話ボタンを押した

…………

「…もしもし」
「あ、ノボリさんですか?お仕事中にすみません」
「いえ、構いません、どうしました?」
「あの、今日カミツレちゃんに夕ご飯に誘われたんですけど…行ってきても構わないですか?」
「…ええ、わたくし今日も遅くなりますので、ぜひ楽しんでいらしてください、帰る際には一言連絡してくだされば幸いです、では」


ガチャリ

一方的に性急に切られた電話はツー、ツーと虚しい電子音を鳴らしていた
悩んだ時間に対して通話時間は30秒である
本当に忙しいのだろう、卑屈にしか受けとれない自分が嫌になる
そうだ、記念日を忘れてしまうくらいに忙しいのだから、仕方ない、ノボリさんを責めるなんて、何を考えているんだ
私は、ふと、視界に入ってきた、わざとらしく赤い丸で今日の日付が囲まれているカレンダーを壁からはがし、丁寧に破いてからゴミ箱に捨てた
同じように机の上に置いてある卓上カレンダーは、今月の分を抜き取り、黒で塗りつぶして捨てた
もし帰ってきたノボリさんが気付いて、気を遣わせてしまったら申し訳ないついでに、結婚記念のお祝いにと買っておいたワインは流しに、ペアのピンキーリングは紙がたくさん入ったゴミ箱に捨てた


「カミツレちゃん、ノボリさんが行ってくるといいって!」
「…そう、わかったわ、じゃあ、今から一時間後位にライモンジム前でどうかしら?」
「わかった、準備していくね」


洗面所に行くと、顔は思ったよりもひどくて、冷水で顔を洗ってみた
頭が冷えると、自分の中身がからっぽになっていくような感じがして、怖くて仕方がなかった
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