愛していたのだ。間違いなく。
美しく、強く、尊い彼を。
私の全てが彼の糧になればいいと、捧げるこの思いは、身体は、全身全霊で愛だった。
「君のはもう愛じゃないよ」
「じゃあ何だって言うのよ」
「宗教だ」
君は敬虔で盲目的な信者。彼はアイドル。
言い放つクダリの目は虚ろで左右の目は焦点を結んではいない。
「それもくだらない、倒錯した。先立つものは色欲で辿り着いたのは無償の信託。馬鹿馬鹿しいよ、心底」
「ばっさり言うのね」
「君が言えって言った」
クダリはその瞳に何も映してはいない。色素の薄い虹彩はそこになにものが映り込むことも拒んでいる。
「いつからそうなった?いつから彼が正義になった?全てになった?」
「覚えてないよ」
「ノボリはただの人間だよ。神じゃない。ノボリでしかない」
「知ってるよ」
クダリは目に見えて苛立っていた。でもそのことが私をたとえ一ミリであろうと変えることはない。クダリは私を動かせない。私に何も与えられやしない。
愛していた。彼を。それを自覚するだけで私は幸せと興奮に身を沈められる。ああなるほど、彼は神だ。私に全てを与えてくれる。
一際中を強く抉られる。私の身体は素直に快感を拾い上げて大きく跳ねた。
「んっ、ふ、ぅ」
「ちょっと、黙って」
ノボリさんには触れられない。神聖で清廉なノボリさん。愛するノボリさん。私の全て。
なんでだろうね。彼女はノボリに肉欲を感じない。感じなくなった。だからこうして僕の下であんあん喘ぐのだ。
崇拝。それは最も適切で、だからどうして笑いを誘う表現だった。教祖も信者も君一人。君が勝手に昇華した思いを、穢らわしいと手放した感情を、身を焦がすほどに欲している存在に君は気づかない。
ノボリが君に恋していることを知ったら君はどうするかな。その時にはきっと、ノボリが聖などではないただの男なのだと君は知る。その無償の愛という名の狂信は幻に滅ぶだろう。愛は死ぬ。僕があまりに優しいから生かしてあげてるだけ。
さながら僕は天使ってわけだ。笑えない。
一番馬鹿馬鹿しいのはきっと、僕が君を愛してしまったことなのだ。こんなのくだらない戯曲でだってありえない。
締めつける雌臭い中に精を吐き出した。
ぐうぞうすうはい
あるものを象徴として絶対的に崇拝、盲信すること。