「隣、空いてる?」
「うん、空いてる」
後ろを振り返って見上げてみればこちらを見下ろす透き通った瞳と視線が絡まって自然と笑みが漏れた
「久しぶりだね」
「うん」
「もう、三年ぶりじゃない?」
「そう、かもしれない」
まだ少し肌寒い
昼間は春を匂わせるようになった風も日が落ちれば身を切るような鋭さを孕む、季節
特に意味もなくこの丘に来た
小さい頃からの私たちの秘密の場所
今となっては私ひとりだけど
星がきれいだったから
足音も気配もなく突然後ろからかけられた声に、全然驚かなかったっていえば嘘になる、けど、私は自分でもおかしいくらいに冷静で、落ち着いていた
「驚かないんだね」
「ん、なんとなくレッドが来るような気がしてた」
「嘘」
「嘘じゃないよ」
ぴったり、私に寄り添うように座りこんだレッド
三年も経てばいろいろ変わるもので、背もぐっと伸びて、声も落ち着いたテノール、柔らかい曲線の多かった身体はごつごつした筋肉質になっている
「おっきくなったねえ、レッド」
「ナマエ、同い年でしょ」
でも、すり寄るように触れてきた腕から伝わってくる暖かさは小さい頃からずっと変わらない
「半袖なんか着て、ほんとは寒いんでしょ」
「寒くない」
「えー」
くすくす、笑い合う
つい昨日までこうして毎日隣で笑い合ってたみたいな、穏やかな空気が浮かんでいた
「懐かしいね」
「うん」
「二人が旅に出た前の日もここに来たね」
「今日は邪魔な奴はいないけど」
「グリーン拗ねるよ」
「…」
「今までどこにいたの?」
「…山」
「山って、レッド…まあいいや、急に帰ってきて、なんかあった?」
「なんかないと、来たらだめ?」
「そういう訳じゃないよ、でもずっと連絡も寄越さなかったじゃない」
「だって」
「だってじゃない!おばさんだってずっと心配してたんだよ?もう帰ったの?」
「ううん」
「顔くらい出さなきゃだめでしょ!」
「ナマエは?」
「え?」
「ナマエは心配、してた?」
図体ばっかり大きくなって、割に女々しいことを聞いてくるものだ
不安なのか、揺れる瞳はどこか頼りない
「心配、してない」
「…」「だって、信頼してるもん」
「…」
「ずっと連絡寄越さなくたって、こうして帰ってくるって、強くなってるって」
「…」
「ただ、私としてはもっと帰ってきてほしいしたまに電話くらいしろって思うけどね」
これは嘘
心配してないなんて、嘘だ
信頼してるのと心配しないのとはまた別の問題
ひょっとしたらおっとりしているレッドのお母さんなんかよりずっと、私の方がレッドの無事を、何より、心配している
「ごめん」
「謝るんだったら、もっとちゃんと会いに来て、よね」
「ごめん」
伸びてきた指が不器用に私の目元を拭って、星がくっきりした形を取り戻した
それは何に謝ってるの
「きれいだね」
「うん」
「レッドは星に似てると思うの」
「なんで」
「なんとなく、」
ずっと上の方で輝いてるレッド
それを届かない場所で恋い焦がれる私
「…俺は、星なんかじゃないよ」
「?」
「俺は、そんなに強くない」
そんなこと言ったら、グリーンとかが傷つきそうだなあ、なんて思ったけど、レッドがあんまり泣きそうだったから言えなかった
「俺は星になりたくない」
「レッド?」
「ナマエ」
俺についてきてくれないか
俯いて呟いたレッド
私に触れた手は弱々しく震えていた
ソリタリー・シリウスに終止符を
あの時と同じ場所で孤独を捨てた星に
¶茅様・10000hit企画「レッド夢」