人ごみの中で前を歩いているのは、この街には珍しいカップルだった。
通勤するサラリーマンの間で堂々と、その…手を繋いでいる。いちゃいちゃしたオーラにあてられそうだ。
ちらり、と隣を歩く彼を見る。私より少し背の高い彼は、顔もかっこいいし、バトルも強いし、何をやらせてもそつなくこなす。
私なんか、つりあわないや…
少し開いた彼との距離が無性に寂しくて、うつむいた。
「どうしたの」
「わあっ!ななな、なんでもないよ!」
「…ふーん」
そう言ってトウヤくんはまた歩き始めた。
ああ、変な声出ちゃった…せっかくこうして一緒に出かけてくれてるのに、つまんないだろうな。ごめんねトウヤくん…
「…あのさあ、」
「な、なに…?」
「俺と一緒にいんの、そんなにつまんない?」
「そ…!そんな訳ない!…です」
「ふーん、じゃあさ、」
もっと楽しそうな顔しなよ。
トウヤくんの大きくてちょっとひんやりした右手が私の左手を包んだ。驚きすぎて、声がでない。
「あれ、こうして欲しかったんでしょ?」
そう言って前を歩くカップルを指差す。気づいてたんだ…!とゆうか人に指差したらいけません!
トウヤくんはくすくすと愉しそうに笑った。
「ナマエ顔赤すぎ」
「〜っ誰のせいだと!」
「じゃあやめる?」
え、嫌!
俄かに手の力を緩めたトウヤくんに必死で嫌だと目で訴えたら、トウヤくんはふいっと目をそらした。
「…それ、反則」
「え?」
「そんな顔だれにも見せんなよ。ブスだから」
「ひどっ!もう知らないトウヤくんなんて!」
今度は私から手の力を弱めるけど、トウヤくんが痛いくらいぎゅっと握ってきたから手は離れなかった。
「ナマエ手熱過ぎー」
「トウヤくんはひんやりしてるねー」
「アイス食べる?」
「うん!並ぼっか!」
こんな私たちもまわりから見たらちゃんとカップルなのだろうか?
そんなことを考えてたら、自然と笑顔になった。
(トウヤくんは私と一緒にいてつまんなくないの?)
(…はあ、俺がつまんないやつとこうして一緒にいると思う?)
(っ…!えへへ)
(何それ気持ち悪い)