「ただいま戻りました」
玄関を開けてみれば、ふわりといい匂いがして、空腹を刺激された
匂いの元へと足を忍ばせて向かう
キッチンにはやはり、愛しいナマエの小さな背中がありました
忙しく夕食を作る彼女はわたくしに気付いていない様子
その背中を両手で優しく包み込んでみれば彼女は一瞬びくりと驚いたように震えました、そのような挙動のひとつひとつもやはり、可愛らしい
だんだんと強く抱きしめれば彼女は包丁を置き、胸の前で結ばれているわたくしの両手を軽く叩きました
苦しいのでしょうか、まあ、止めるつもりはありませんが
「…わたくしが帰ってきたときには玄関まで迎えに来るように言ったと思うのですが」
「ごめん、ごめんねノボリ、気づかなかったの、おかえりなさい」
「…寂しかったですか?」
「うん、待ってたよ」
くるりと彼女の身体を回してもう一度抱きしめました
顔を覗きこんでみれば目尻はこすったように赤くなっていて、ああ、わたくし達の帰りを待って泣いていらっしゃったのでしょうか、なんともいじらしくお可愛らしい!
まぶたに軽いキスを落とせば、彼女はくすぐったそうに身を捩りました
その仕種にさえわたくしは興奮し、どうかしてしまいそうになる
もう一度、唇を落とそうと顔を近づけました
「ナマエ、ただいまー!」
…ああ、いいところでしたのに、なんという愚弟でしょう!
こちらにまで響いてきた声にナマエの身体はびくり、とわたくしの腕の中で揺れました
「ノボリごめんね、ちょっと行ってくる」
名残惜しさにもう一度強くナマエを抱きしめてから放してやれば、ナマエはぱたぱたと玄関に向かいました
わたくしと違ってクダリは自分の思い通りにならなかったときはナマエにも容赦ない
女性は優しく扱うようにとあれほど言っておりますのに
しかしわたくしはクダリに強く当たることはできないのです
「ノボリ、見て見て!帰りにね、ナマエのために買ってきてあげたの、どう?」
玄関から入ってきたクダリの腕の中に抱きすくめられているナマエ
その首には先程までなかった、赤い首輪がはめられている
ナマエは嫌がる訳でもなく、ただ濁ったような瞳で空を見つめております
ああ、しかし、その表情もやはり官能的でゃらり、と無機質な音がいたしました
わからない
何が普通かわからない
(その音でさえわたくしを興奮させるのです)
¶湊様・10000hit企画「▲▽に監禁される幼馴染」