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「受験の時はどうしたの?」
「はあ?」

向かいに座ってシャーペンを走らせている彼らに聞いてみれば、二人ともシャーペンを止めてきょとんとした表情で返してきた

「何なのですか唐突に」
「いや、ふとね、二人だったら不正もやりたい放題なんじゃないかと思いまして…」
「ああ、高校受験のときですか」
「そうだねー、4、5人にすっごい見られたよ!受験票と交互に穴が開くくらい見つめてくるから吹きそうになっちゃった!」
「私たち、そのような不正などいたしませんのに」

不服そうにノボリが言う
まあ、クダリはともかく、ノボリはまじめだしやらないとは思うけど

「まあ、僕たちが本気でお互いの真似したら、絶対誰にもわかんないけどね、そうでございましょう、ノボリ?」
「うん、そうだね、それにそんなことする必要もなかったしね」
「あー出ました余裕発言ーはい、全国の悩める中学三年生に謝ってください今すぐにー」
「はいはい、わかりましたから、現実逃避してないで勉強してくださいまし」
「…」

ノボリは笑顔から呆れた顔になって、私のまっさらなノートを指でとんとん、とたたいた
私がクダリかノボリだったら、それか二人と三つ子どうしだったら、テストで助けてもらえるのになあ、なんて考えて聞いたけど、よく考えたら私が解いた答案は結局誰かのもとに行くわけで、二人が赤点になるのはかわいそうだからだめだなあ
あーあ、どうしようもないな

「どうしたの?なんかわかんないとこあったら僕に聞いて!」
「クダリに質問するのはなんか屈辱」
「何それ失礼」
「では、わたくしに聞けばよろしいではないですか」
「やだー!僕が教えるの!」
「ちょ、クダリ、ここ図書室!」

んんっ、ってわざとらしい咳ばらいがどこからか聞こえた
放課後に図書室で一緒に勉強しよう、なんて誘われたのはいいけど、どこがわからないかもわからないくらいに末期な私の集中力が続くはずなんかなくて、なんにせよ二人の勉強を邪魔してしまっている自分が情けない

「どこがわかんないの?」
「んー…ここからここまで」
「それってテスト範囲全部」

だって、わかんないんだもん
そう言えば、クダリは困ったように笑った
困らせるつもりはなかったんだけどなあ
もう帰ろっかな、ちょっと寂しいけど

「んとね、まずは原理を理解することからね」

クダリは急に私のすぐそばまで椅子を引き寄せて、私の教科書をぱらぱらめくりながら言った

「…え、クダリ?自分の勉強あるならいいよ?」
「僕が教えたいから教えるの!」

それに僕は頭いいからいいのー

にこ、と笑うクダリ
くそ、何言ってもかっこよくて、もてる奴は気に入らない

「じゃあ、最初はとばして、区分求積法からやろっか!」
「…?」

私は大人しく、まっさらなノートが数式で埋まっていくのを、耳元で話すクダリの声をBGMに眺めた



「ちょ、ちょっとクダリ、私すごいかも…!新たに現れし私の真の才能よ…!!」
「はは」

ノートには私の字で並べられた数式
クダリが大きいまるをつけてくれた
よくできました、って頭をなでられて、子供扱いするなとか髪が崩れるとか言いたいことはたくさんあるけど、そんなことはどうでもいい
何だろう、この感動

「こんな訳わかんない図形の訳わかんない体積求めて正直何の役に立つか訳わかんないけど、とりあえず訳わかった!」
「ちょっとへこんだ」
「クダリのおかげ!ありがとう」
「…えへ、どういたしまして」

少し照れたように笑うクダリ
思わず頭をなで返したら、向かい側からものすごい視線が送られていることに気付いた

「…ね、ノボリ?」
「…」
「…えーと…今度は英語、教えてほしいなー、なんて…」
「…いいですよ、こちらに来てくださいまし」

机を回って、ノボリの隣の席に座れば、クダリに対抗するように私のすぐそばまで椅子を寄せてきた

「えと、ノボリも自分の勉強大丈夫?」
「ええ、少なくともあなたよりは」

わたくしたちに遠慮する必要などありませんよ

やっぱり失礼なことを言って、それからふわりと微笑んだノボリはクダリと全然似てなんかなくて、でもどっちも本当に優しいんだなあ、と思った

うん、二人と兄弟じゃなくてよかった
仲のいいクラスメートなら、こうして二人に教えてもらえるし


春はまだ遠い

(ノボリ、ありがとう!)
(っ…!い、いえ、その)
(ノボリばっかずるい!ナマエこっちきて!)
(え、いや、さすがにもう申し訳ないから自分で勉強するよ)
(じゃあ、明日も一緒にここでやろ?)
(二人がいいなら、私は嬉しいけど…)
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