「クダリさん?」
がちゃり、とノブを回す音に沈みかけていた意識がまたふわふわと浮き上がった。起きなきゃ。ああ、でも、まぶたが言うことを聞かない。
「あれ?あ、」
近づいてくる靴音と気配。僕を見つけたらしい。でもごめんね、僕、ほんとに眠いみたい。
「クダリさん、寝ちゃってたんですね…」
うん、そうだよ、なんて返事が返ってくる訳でもないのにね。
ただ、心持ち声がしょんぼりしたような気がして、僕はすぐにでも飛び起きようと思うのだけれど、それでもやっぱり僕の体はどこかしこも力が入らなかった。
そのまま靴音が遠ざかる。あ、待って、ごめん。今起きるから行かないで。そうしたらまた僕のほうに戻ってくる音がした。よかった。なんとなく安堵する。
「…大体ですね、クダリさんもノボリさんも普段から働きすぎなんですよ」
え?
僕が横になっているソファの前の床に座っているのか、ナマエの声がやけに近くに聞こえる。何を言い出すのかと思ったら。
「毎日毎日、一体何時まで起きてるんですか」
ええと、昨日はここに泊まりだったから、2時くらいかな。でもノボリはもっと起きてるよ。
「今日から連休でお客様も増えるっていうのに、今から倒れたらどうするんですか」
う。痛いところをつく。でも僕、書くお仕事は苦手だから、たくさんがんばらないと終わらないんだ。
「駅員のみんなも、ボスがそんなだと心配しちゃいますよ」
駅員って、それはナマエも入ってるの?
「それにソファなんかで寝て。仮眠室に行かないと、余計疲れちゃいますよ」
あともう少しだけ。そしたら起きるから。
「クダリさんが倒れたら、嫌ですよ」
それは、僕は自分に都合のいいように受け取っていいのかな。
「…いつも、お疲れ様です」
ナマエは僕の頭を撫でて、そそくさと立ち去った。ナマエが触れたところからじんわりあたたかい眠気が広がっていって、僕はすぐにまた眠ってしまった。次に起きた時には仮眠室の毛布がかけられていて、コートはきれいにハンガーにかけてあった。机の上には書類が少し。これを持ってきたんだろう。とりあえず今は、仮眠室に毛布を返して、君に会いに行こう。とびきりのお返しの言葉を持って。