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レッド先輩とふたり、公園の傍を歩く。
なかなか休日に都合が合わなかった私たちは、久しぶりに二人だけで出かけていた。
ひとつだけ違う学年の中、私たちが付き合ってから初めての春を迎える。
先輩とはまだデートも数回しかしたことがないけれど、その分久々に二人だけで歩く道はとても綺麗に見えた。

「なんか、いいにおいがする」

そんないい雰囲気が流れる中、突然先輩はそんなことを言い始めた。

「いい匂い?」
「うん」

花の匂いだろうか、と首を傾げる私を余所に、先輩はなぜかこちらに向かってすんと鼻をひくつかせる。
なんだなんだと動けないでいると、先輩がいきなり首元に顔を寄せてきた。
思わず「わっ」と声を上げて肩を押し返すと、目を開けた先輩が気にした風もなくこちらを見上げて、「ここから」と私の首元を指さした。

「あ……もしかして香水ですか?」
「ナマエだったんだ」
「?」
「匂い」

『いい匂い』が私からしたことが嬉しいらしく、先輩はふわりと笑った。
あまりにまっすぐな瞳に思わずこっちが恥ずかしくなってしまいながら、ごまかすように香水を取り出す。
「これです、香水」
「……ラベンダー?」
「はい、」

私が一番好きな香りです。言いながら、物珍しげに綺麗な香水の瓶を見つめる先輩の手の甲に、少しだけ香水を付けてみせた。
先輩はすんすん、と犬みたいにそれを嗅いで、

「ナマエのにおいだね」

そう言って、とても綺麗に笑った。
それから香水をしまった私の右手を、香水のついた左手にそっと絡める。
ただでさえ熱い頬がまた赤くなるのを感じて先輩を見上げると、ばっちり目が合ってしまった。

「……どうして、」

手なんか繋ぐんですか、という言葉は失礼すぎると飲み込んだ。
今までは二人並んで歩くのが精一杯で、手を繋いぐなんてことはなかったのだ。

「ナマエのにおい。俺にもうつらないかなって」

先輩が細めた両目に私をうつす。
本当に私を好きでいてくれているのだと、自惚れてしまうくらい優しい瞳だった。
きゅっと強めに握られた手を、応えるようにそっと握り返す。

「ダメですよ、そしたら先輩の匂いが消えちゃうから」

私は先輩の匂いが好きだ。と言ったらなんだか変態くさいけど。「先輩の匂い、うつしてください」

言ってしまった後で、かあっと顔が熱くなるのが分かった。
もしかしなくても私今、ものすごく恥ずかしいこと言ったんじゃないか。
内心どきまぎしている私を向いた先輩はしかし、微かに口角を上げて絡めた手を持ち上げた。

「じゃあ、交換」

あっと思った時には、手の甲に唇の感触が伝わっていた。

「……い、いま、」
「伝わった?」

俺のにおい。

こちらを見上げて笑う先輩にこくこくと頷いて、先輩はそんな私を満足そうに見つめていた。


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