「先生…」
「なんですか」
「暑いです」
「奇遇ですね、わたくしもです」
「先生…」
「なんですか」
「帰りましょう」
「誰のせいでここにいるとお思いですか」
持っているファイルで頭をぱしっとはたかれる
でも、それにもいつもみたいなキレがなくて、やっぱりノボリ先生も夏バテしてるんだな、なんてぼんやり思った
「口ではなく手を動かしなさい」
「そうしたいのは山々なんですけど、答えがわからないものを動かしようがありません」
「開き直るのはやめなさい」
ここに…夏休みのゆだるほど暑い教室にいるのなんて、もちろん私のせいなんですけどね!
古典で補習を受けることになったのはノボリ先生の受け持つクラスではどうやら私だけらしい
二人きりなんていっても、これだけ暑いとときめきもへったくれもない
さらにこの暑さでも、ノボリ先生は一番上のボタンまでぴっちりしめてネクタイまでしてる
見てるこっちが余計に暑くなるくらいだ
「まったく…どうして赤点などとるのですか」
「それは私も常々疑問に思ってるんですよ」
はあ、とひとつ大きなため息をついて先生が立ち上がった
嘘、先生がいたから我慢してたのに、こんなとこ一人じゃ耐えられない
「せ、先生!」
「…あなたは、物語を感じる感性はあるのですから、文法や単語を覚える努力をなさい」
すたすたと歩いてきた先生は私の隣に椅子を引いて腰かけた
ぐっとネクタイを緩めるのを隣で見つめる
「…どこがわからないと?」
「…先生?」
「…早く終わって、冷たいものでも食べますよ」
「!」
夏、教室にて
(こことこことここです!)
(全部じゃないですか!)