「あれ、お昼食べないの?」
「あ、うん、いや、あんまりお腹空いてないからいーや」
「大丈夫?」
「うん」
うん、いい感じに疑われてる
あまりに定石通りにどもる私を友達は心配三割疑い七割の目で見ている
当然だ、昼休みにみんながお弁当を食べる中こそこそと教室から出て行こうとするなんて、怪しすぎる
しかも、スクールバッグを持って
私は曖昧な返事でごまかしてそそくさと教室を出た
昼休みにバッグを持って歩く人なんていないから、そこそこ目立つ
なんか私がさぼって帰ろうとしてるみたいじゃないか、心外だ
「おや、どうしたのですか」
「…ノボリ先生」
「カバンを持ってどこに行くおつもりですか」
「…ちょっと上に用があって」
「そうですか」
では、と言って私の横を通り過ぎる先生をちらりと見上げる
廊下で偶然にすれ違ったノボリ先生
今日も黒いスーツでパリッときめてて、かっこいいなあ、なんて多少は思う、思う、けど
(どこに行くおつもりですか?なんて、白々しい…!)
肩に掛かるずっしりと重いかばん
今日は張り切りすぎて5時から起きて準備したから身体も重い
そのせいか、何も知りません、みたいな先生の物言いがなんとなく鼻についた
ふつふつと怒りが沸いてきて、かばんもだんだん重くなってきた気さえする
…もう知らない、教室に戻ろう
「…今度はどちらへ?」
「わっ」
踵をかえすと、そこにはまだ先生がいた
無表情のまま私を見下ろしている
「先に行っていますよ」
耳に口を近づけて有無を言わさないように囁くと、先生は廊下を歩き出した
…そんなの卑怯だ、一度ちらりと振り向いた先生の、きれいな微笑みが目から離れない
そんな顔をされたら、私が何も言えないのを知っているくせに
少しの間立ち尽くして、私はまた歩き始めた
(げんきんなことに)少し軽くなったかばんの中の二つのお弁当がよってしまわないよう気をつけながら、私は立ち入り禁止の屋上への階段をのぼった
愛生徒弁当
(あなたのお弁当が食べてみたいなんて言われたら、断れない)