ブチャラティに頼んで、リオを探すことにした。

その結果、驚くべきことが分かった。


「……暗殺、チーム?」
「あぁ、そうだ。どうやらお前の姉は同じようにパッショーネに入団していたらしい。」

正式の手順を踏んだのか、それとも違うやり方で入団したのかは分からない。とブチャラティは告げて手に持っていた資料を私の目の前に差し出す。
そこには確かに姉の名前――リオ、と書かれている。クリップで書類に留められていた一枚の写真に写る女性も、彼女で間違い無さそうだった。

「じゃあ、今も……?」

その暗殺チームにいるのだろうか。そう思ってぼんやりと呟く。そんな私の目の前でブチャラティは無言で首を左右に振った。
その動作が示す意味が分からず首を傾げれば彼は僅かに眉を下げて顔をゆがめる。


そして――「死んだそうだ。」と呟くような小さな声で言った。


死んだ? 姉が? 双子の片割れである彼女が、死んだ?
嘘だと思った。思いたかった。信じたかった。

「……何時、死んだの?」

震えた声でブチャラティに問いかける。初老の男性が姿を消した時と同じ――数年前に、姉は死んでいたらしい。
誰に。一体どうやって。何故。――とそんな言葉が私の頭の中をぐるぐると駆け巡る。


ポタリと何かが手に持った書類の上に零れた。見ればそれは小さな雫で、出所を辿ればそれは私の両目から零れだしていた。
そうして止め処なくあふれ出した涙を止める術など知らず、ただ私は涙を流し続ける。溢れて頬を伝った涙は書類に落ちて、印刷された文字がじわりと滲む。
姉の名前が綴られた部分までも滲んでしまう。

とうとう嗚咽が零れだした。震える手で書類から写真だけを抜き取って、触れる。写真の中で小さく微笑みを浮かべている姉は、きっと私の悲しみを知らない。

「だれに…ころされたの…ねぇ、ブチャラティ。」

教えて、そう嗚咽と共に彼に問いかける。彼は僅かに強張ったような表情を見せた。始めてみる顔だった。
その表情から察するに、恐らく姉はパッショーネの上部に殺されたのだろう(何をしたのかは全く検討がつかないけれど)。
ただのギャングやチンピラに殺された、もしくは事故死だったのなら―――ブチャラティはこんな表情を見せないはずだ。
だから……

「ねぇ、だれなの?」

私の姉を殺したのは一体誰なの。
そう何度も問いかける。彼は"言うべきか、言わないべきか"という表情を浮かべ、口を閉ざす。


「大丈夫。わたし、大丈夫よ。」


姉は一体誰に殺されたのか、それはもうなんとなく分かっていた。
両目から零れていた涙が漸く止まり、部屋が沈黙に包まれる中で私が言い切ってみせた後に、ブチャラティは口を開いた。


「ボスが、やった……ナオの姉は、ボスの情報を掴んでしまったらしい。」

だから殺された。遺体はボスの手によってそれこそ塵すら残さずに消し去られたらしい。そうブチャラティが続ける。
――あぁ、やっぱりそうだったんだ。
思わずそんなことを心の中で呟く。姉が暗殺チームに所属していたということを聞いて、なんとなく予想はついていた。
恐らく彼女は同じチームのソルベとジェラートを助けようとしたのだろう。だから――自らが変わりにボスの情報を調べることで身代わりになって殺された。もしくは一緒に殺された、のどちらかだと思う。

「大丈夫か?」

ブチャラティが心配そうにこちらを見る。

「大丈夫だよ」

そう笑って見せて、涙で滲んでしまった書類に対して謝った。同時に写真を貰ってもいいか、と問いかければ彼は「Si」と答えてくれた。
そして彼は「出かけてくるよ」と言い残し部屋を出て行く。独り残された私は写真を手にベッドへと倒れこんだ。


「……本当に、死んじゃったの?」

ねぇ。と静まりかえった部屋の中で写真に問いかける。勿論、返事などは返ってこない。

彼女は本当にボスに殺されたのだろうか?
それが本当だとしても、あの姉が何もせずに殺されるなんて信じられない。双子だから、十数年一緒に過ごしてきたからこそ――分かるのだ。

「きっと、ボスに何かを仕掛けるはずなんだ…だってリオだもの…」

見つけた情報をどこかに隠して、時限爆弾のように時間を置いてから爆発させるのかもしれない。彼女ならやりかねない。

「きっと、そうよね。リオ。」

写真にそう呼びかけて、皺にならないように綺麗に写真たてに仕舞う。写真の中の姉は、以前沈黙したままであった。




 
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