目を覚ませばブチャラティの姿がナオの眼界一杯に広がる。

同時に、彼の背後にいる"存在"がナオははっきりと視認できた。
どうやらブチャラティはナオが目を覚ましたことに気づいたらしい。部屋の隅を指して、『アレが見えるか?』と彼女に問いかける。
アレ、とは一体なんだろう。
そう思ってナオが部屋の隅へ視線をやれば小さなウサギが部屋にいることに彼女は気づいた。
だが、ウサギはウサギでも…普通のウサギでないことくらい彼女にだって理解できた。

洋服を着て、二足歩行で、今にも喋りだしそうなそのウサギのは紛れも無い――彼女が手に入れた"スタンド"であった。






『一体どういうことなのか、説明して貰おうか。』

ポルポから渡されたライターの火が消えないように棚の上においてから、ブチャラティはナオに向かって静かに言った。
いくら静かに言っていようと、その声が明らかに怒っている時のものだということくらい彼女にも分かっていた。
だから彼女は静かに『ごめんなさい』と告げる。
途端、ブチャラティは怒鳴った。

『何故、この道に踏み込んだッ!!』

ブチャラティのその声にナオは思わずびくりと肩を揺れさせる。
彼が怒るであろうことは彼女にだって容易に想像できたし、予想していたことであった。
それでも普段温厚そう(に見える)な彼が怒るというのは…少し怖いと感じた。


『……ブチャラティに、何か…返したかったんだ。』

どんな形でもいいから、貴方にもらった"恩"を返したかった。
そうナオが告げればブチャラティは小さく顔をゆがめる。悲しさや落胆、怒りが入り混じったようなそんな表情だ。
そして同時に彼は溜息を吐いた。

『…ギャングに入るということは、死ぬ場合だってあるということを理解しているのか?』

静かに、彼は問いかけた。
勿論分かっているとナオが返した声は、僅かに震えていた。


ブチャラティはまた溜息を吐いた。同時に彼は『分かった』と告げる。

『お前が入団テストを受けてしまった以上、それはもう取り消すことはできない。
それに……スタンドを手に入れたのなら、どっちにしろ仲間になるという選択肢以外は無い。』
『ブチャラティ…』
『俺の仲間になるのは別にかまわない。だが、くれぐれも危険な真似はするな。』

いいな? そう念を押すように言ってブチャラティは立ち上がる。
『食欲はあるか』と問われて『Si』とナオが返せば彼は無言で階段を下りていく。
その背中を見送りながらナオは今後の行動について、深く考えていた。


――あと、2年。

いや、1年半という期間の間で…私には一体何が出来るのだろう。
時が訪れて、ジョルノが組織に入ることによって運命は動き出す。その時に私は、一体何をすることが出来るだろうか。

ブチャラティやアバッキオ、ナランチャ。
彼ら3人が1年半後に…運命が動き出したその後に、死んでしまう。


出来ることなら、その運命を変えたかった。


『ナオ、大丈夫か?』

何時の間に戻ってきていたのだろう。ブチャラティが彼女の顔を覗き込みながらそう問いかけた。
ハッとして顔を上げれば、彼女の鼻にふわりとした何かの料理の良い香りが届く。
どうやらブチャラティがわざわざ何かを作って持ってきてくれたらしい。
彼が手に持った皿にはつい先ほど作られたばかりなのかまだ温かそうなリゾットが盛られていた。

『食べられるか?』
『ありがとう。』

差し出された皿を素直に受け取り、共に渡されたスプーンを使ってリゾットを口に運ぶ。
おいしい、と言葉を零せばブチャラティは微笑んだ。




 
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