――"もう戻ることはできないから、次の港で下ろす。"
そう彼らは言った。
そして短い間だけど名前を知らないと不便だろうから、ということで名前を教えてくれた。

訳が分からなかった。泣きそうだった。線路に突き飛ばされたと思ったらなぜか海にいて、海で溺死しかけたと思ったらなんだかよくわからないものに引き上げられて、花京院さんという人に助けられて、よく分かんないけど生きてるし良いかなんて思ってたらいきなり疑いの目を向けられて。"DIO"なんて人知らないのに……理不尽だと思った。
トイレに備え付けられていた鏡を見れば、鏡の中の私はひどく泣きそうな顔をしていた。どうしてこんな目に逢わなければいけないの、とでも言いたげな表情だ。

「…ん?」

ふと、スカートのポケットの中に異物を感じた。触れれば硬い何かが入っている。
溺れた時に石でも入ったのか? と思いながらそっと手を入れれば指先に痺れるような刺激が走った。咄嗟にポケットから手を引き抜けばぽたりと床に赤い液体が落ちる。その瞬間、ひどい目眩がした。

そしてその日、私はひどい熱を出した"らしい"。らしい、というのはその間の意識が一切無く、気がつけばなぜか救命ボートの上だったからだ。
揺れるボートの上で目覚めた時、空条さんがこちらを見ていることに気がついた。緑色の目が鋭くこちらを見据えていて、思わず身体が震えた。
――なんだろう、すごく怖い。もしかして私何かした?
ぐるぐるとそんな不安や言葉が頭を駆け巡った。手が、震えた。それについ先ほどまで熱に魘されていたこともあってか、頭がひどく痛かった。


「…オイ。」
「え?」

不意に空条さんの大きな手が私の肩を掴んだ。――え!? やっぱり私何かしちゃったの…?
焦りや不安、あと恐怖でぐるぐるとそんなことを考えていれば今度は肩を掴まれたまま名前を呼ばれた。びくびくと怯えながら空条さんの方へ静かに振り向けば、彼の背後に何かが見えた。
それは人のようで、人でないように見えた。肌は青く、空条さんと同じくらい大柄で筋骨隆々な男のようだった。

「…お前、見えるのか? 俺の"スタンド"が。」
「スタンドって…あれ、ですか…?」

戸惑いながらも空条さんの背後に見える男の姿かたちを説明してみれば、その途端に彼の雰囲気が変わる。もともと私を疑っているのは気づいていたが、それがさらにきつくなった気がした。

「いつから見えた?」
「え…いつからも何も、今が、初めて、です。」

怯えながらもなんとかそう言葉を振り絞れば空条さんは「オイ、ジジィ。」とジョースターさんを呼んだ。同時にふと背後に何かの気配を感じた私は、そっと肩越しに振り返ってみた。
――百合の花が、見えた。

To be continued…⇒
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