彼女にとってその日は随分と平凡で、当たり障りない一日のはずだった。
いつものように決まった時間に目覚まし時計に起こされて、いつものように決まった制服を身に纏って、いつものように決まった時間の電車に揺られて学校へ向かう。それが彼女の日常。それが彼女の平凡な一日。――あぁ、だけど。この日だけは彼女にとって"平凡"ではなかった。それが全ての始まり。それが全ての運命をひっくり返した。
ふと、彼女は背中に違和感を感じた。感じるはずの無い、熱の存在だった。それは――手のひらに良く似た形をしていた。
悲鳴が聞こえた。彼女の身体は宙に浮いていた。彼女が悲鳴を上げるよりも先に、彼女の傍に居た友人が悲鳴を上げた。友人は彼女に向かって手を伸ばそうとしたが、それよりも地球の重力が彼女を線路に引き寄せる方が速かった。そして線路に落ちた彼女。電車の到着を知らせるベルが鳴り響く。悲鳴とベルは織り交ぜ合って、不協和音となる。
ふと、彼女は見知らぬ男と視線が合うのを感じた。男は恐怖に染まった目で彼女を見下ろしていた。
――俺のせいじゃない。
震える唇が紡いだ言葉を、彼女は不協和音の合間に聞いた。
そして、駅へ電車が訪れる。巨大な鉄の塊が不器用にも停止しようとする音がベルと悲鳴に混じるようにして鳴り響いた。
そしてそれらの合奏が――彼女が聞いた最後の音と為った。




To be continued…⇒
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