私は自身のスタンドに――"ギルティ・リリィ"と名付けることにした。リリィは見た目から。ギルティは…まぁ、なんとなくで。特に意味などない。

「こういう時、語彙力の無さを嘆きたくなるよ…」

小声で呟いて私は列車の窓の外に広がる風景を見つめた。次の目的地はインドらしい。どんな国なのか、すこしドキドキしてしまう。時計にちらりと視線を向ければ到着予定時刻が近くなっていることに気づいた。







「………何と言うか、」

良く言えば"活気のある"、悪く言えば"騒がしい"街。
インドの第一印象はこんな感じであった。

電車を降り、それぞれ若干の不安を抱きながら駅構内から足を踏み出してみれば瞬時にカルチャーショックを受ける。
たくさんの卵が入ったらしいパックを抱えて自転車を漕ぐ男性。
道端で座り込みながらタバコをふかす男性。
腹ばいになって気持ちよさそうに道路の真ん中で眠りこける牛。

なんだか私には馴染めそうに無いな、とぼんやり思っていればいつの間にか私達を見知らぬ者達が囲んでいることに気づく。
一体なんだと思えば彼らは口々に「バクシーシ」と叫ぶように言った。

「……ばくしーし、って何ですか?」

呟くように問えばアヴドゥルさんが「お恵みを、って意味です。」と答えてくれる。
そんな意味なのかー、と内心思っていればちょうど目の前にいた少年が「恵んでくれないと天国に行けないぞ。」と言ってきた。おいおい、いくらなんでもそれはないだろう。と少しだけ呆れていればジョースターさんがタクシーに乗ろうと口にした。
その言葉に回りにいた人々の内の何人かが「俺がドアを開けるぞ」と言って近くにあったタクシーのドアにしがみつく。

――うん、なんていうか…

「すごい、国だなぁ…」

故郷の日本とはまったく違う。思わずそんなことを思った。


さて、場所は変わってとある店。
カタリと音を立てて目の前に置かれたのは"チャーイ"と呼ばれる紅茶と砂糖としょうがを牛乳で煮込んだインドの有名な飲み物。
口にしてみればしょうがの香りが広がって、ホッとした安堵のような気分になる。気がつけば「美味しい」と無意識に呟いていたらしい。アヴドゥルさんが「でしょう?」とこちらを見て、笑顔で言った。

「チャーイは美味しいですけど、正直ちょっと驚きました。」
「まぁ、要は慣れですよ。慣れればこの国の懐の深さが分かります。」
「そういうものですか…」

私にはちょっと分からないかもしれない。そんなことを思いながらまたチャーイに口をする。
まぁ、この国のことは置いておいて…チャーイは普通に美味しいし、私はこれだけは好きになれそうである。
そんなことをぼんやりと考えていれば飲み干したカップを置いて隣に座っていたポルナレフさんが立ち上がる。反射的にそちらを見やればどうやらお手洗いに行くらしい。店員に場所はどこだと問いかける様子がなんとなく分かった。

「………大丈夫、かな。」

なんだか嫌な予感がした。
胸がざわざわして、言い表しようのない奇妙な感覚が広がっていく。

「(……なんだろう、この感じ。)」

私は思わず首をかしげながらも忘れることにした。分からないことを延々と考え続けても無駄だと判断したのだ。――だけど数十分後に、私はそれを後悔する羽目になることを知らなかった。







「俺はここであんた達とは別行動をとらせてもらうぜ。」

店を出て、暫くしたところで唐突にポルナレフさんが言った。思わず皆が呆気に取られているうちに彼は去ろうとして、私は慌てて彼を引き止めるように「何故ですか?」と問いかけてしまう。彼は私の問いに自らの妹を殺した男が見つかったのだと答える。同時に奴を復讐のために倒すのだと、彼は言った。

「相手の顔も、スタンドすらもわからないのに……本当に倒せるのか?」

静かに、アヴドゥルさんが言う。続けて「ミイラとりがミイラになる。」とも彼は言った。
どうやらその言葉はポルナレフさんの怒りの琴線に触れたらしい。「俺が負けると思ってるのか?」と問いかけて、同時に「思っている」と返したアヴドゥルに掴みかかるような勢いで彼は捲くし立てる。

「ここではっきりさせておくが、俺は元々DIOなんてどうでもいいのさ。」

俺は最初から1人で闘っていたのだと彼は言う。その言葉に「勝手な男だ!」とアヴドゥルさんが言って、険悪な空気が二人の間を流れていく。
そして暫く二人はぎゃあぎゃあと大声でお互いを罵倒する様な勢いで、お互いの言葉や意見を捲くし立てる。その中間に立っていた私は、それらを見守ることしか出来なかった。

最終的にポルナレフさんがアヴドゥルさんに「決定的な一言」を投げつけて、その言葉に思わず手を振り上げた彼の腕をジョースターさんが掴むことで制した。
そして「行かせてやろう」と彼は言う。その間にポルナレフさんは去っていこうとする。

その背を、私はやはり見守ることしか出来ないのであった。


To be continued…⇒
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -