夢を、見ていた。
私はいつものように見慣れた駅のホームで友人と共に電車を待っていて、ちらりと携帯の画面へ目をやればもうほんの数十秒で電車が来ることを知る。そうして画面から目を離した私はもうすぐ来るであろう電車に乗るために一歩、線路に近づく。勿論白線より内側の地点で、だ。同時に背中に誰かが触れるような感触がした。触れたのは共にいる友人ではないことは明らかだったが、私はそのことに気づかず、そして抵抗することも出来ないままホームから押し出された。振り返るよりも先に友人の甲高い悲鳴が聞こえた。

「――――あ、」

身体が宙に舞うと同時に私はようやく自分を突き飛ばしたであろう男を見ることが出来た。
見たことも無い男だった。至って普通の、どこにでもいそうなスーツ姿の、どことなく気の弱そうな印象を受ける男だった。そして男の口が動く――「俺のせいじゃない」と。同時に誰かが押したのであろう非常ベルの音と電車の到着を知らせるアナウンスが響き渡る。線路に落ちる寸前ちらりと私が横へ目を向ければ眩い光が目を刺して、それが電車のライトであることに気づくよりも先に全身に大きな衝撃が走った。




目覚めれば全身汗まみれだった。隣のベッドで眠っていたはずの家出少女は何故か目を覚ましていて、心配そうに私を覗き込んでいた。その手にはミネラルウォーターのボトルと小さなグラスが掴まれていて、目が覚めた直後で思考がぼんやりとして纏まらない私に彼女は「お水飲む?」と問いかけて、そこで漸く私はそれらが私の為に用意されたものだということを理解した。そうして小さく頷けば水が並々と注がれたグラスを手渡されて、私はそれを一気に飲み干した。同時に彼女は「ひどく魘されてたのよ。」と告げる。

「……嫌な夢を、見てたからかも。」
「夢?」
「そう…列車に轢かれて死ぬ夢。」

私が静かにそう答えれば少女は顔を真っ青にして「怖い」と呟く。
――あぁ、私も怖かった。痛かった。

「まだ…思い出せるわ、あの痛み。」

夢は目覚めれば忘れてしまうものだと思っていた。だけど違うのだ。今でも鮮明に思い出せてしまう。轢かれたその瞬間――全身の骨が折れて砕けて、本来曲がらないはずの方向に折れ曲がって、あらゆるところが裂けてその傷口から内臓や折れた骨が飛び出す痛み。思い出して身震いしていれば、少女は真っ青な顔をしながらも「大丈夫?」と問いかけてくれる。優しい子だなあと、思った。

To be continued…⇒
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