"散歩"から帰ってきたリオは酷く青ざめた顔をしていた。
『おかえり』と言えば『ただいま』と微かな声で返事をするだけで、ただ黙って玄関で立ち尽くすばかりである。
何かあったのか。そう思って問いかけてみるが首を左右に振るだけで彼女は何も言おうともしない。

『玄関は寒いから、中に入ったらどう?』

メローネがそう声をかけてみれば、漸く想いだしたかのように彼女は部屋に入ってくる。
そしてフラフラとした足取りでリビングのソファに雪崩れ込むように倒れた。

『……あたま、いたい。』

ポツリと、彼女の口が漸く動いてそんな言葉を発する。
怪我でもしたのかと問いかけてみるが、どうやら違うらしい。原因不明の頭痛がするのだとか細い声で彼女は言った。

『頭痛薬なんかあったかなぁ……大丈夫、リオ?』
『たぶん、寝てればおさまるから…だいじょうぶ。』

心配しないで。そう言って彼女はソファに顔を埋める。
その細い肩は僅かに震えているのが見えて、メローネはまた何か合ったのではないかと察した。


『………襲われたの、また?』

静かに問いかけてみれば返ってくるのは無言の答え。
もしかして眠ってしまったのか、そう思って顔を覗き込んでみればそうではないらしい。黒い双眸ははっきりとメローネを見ていた。

『違うよ。私は襲われていない。』
『でも、何かあったんだろ?』
『……小さな女の子が誘拐されそうになってたから、助けた。』
『へぇ。……それで、』

殺したの?

囁くように問えば分かりやすいほど肩がビクリと揺れた。
恐らくそれが示すのは"YES"という答えなのだろう。…きっと明日には謎の変死体として、彼女が殺した男たちの名前が新聞に載せられることとなる。

『……殺すつもりは、無かった。』
『でも、制御できないことは分かってた。』
『………仕方が、なかったんだ。』
『そうだね。仕方が無かった。
でもいいじゃないか。リオのお陰で少女は助かったんだろ? 人助けになったと考えたらいい。』

そんなに考え込まないほうがいい。そう言ってメローネが彼女の頭を撫でれば『妹が、』と彼女は声を零した。


『妹のことを…思い出したの。』
『……妹?』

双子で…自他共に認めるほどそっくりな妹がいるはずなのだと、彼女は言った。
リオのその言葉にメローネが『へぇ。』と声を零せば『あの子が狙われるかもしれない』と震える声で続けた。

『どうし、よう…あの子が、私にそっくりだから…私と間違われて…』

殺されるかもしれない。
震えた声で言った瞬間彼女の黒い双眸から大粒の涙が零れ落ちる。
零れ落ちたそれらはポタポタと音を立ててソファや床に落ちると小さなしみを作り、それはじわじわと少しずつ大きくなっていく。

嗚咽を溢し、しゃくり上げて『どうしよう』と彼女は繰り返す。
依然、あふれ出した涙は止まることなど知らないかのように彼女の目から零れ落ちていた。



『……探せばいいんじゃねェのか。』


何時の間にいたのだろう。ギアッチョがそんなことを呟いた。
思わずぽかんとした顔でメローネとリオが彼を見上げれば『敵に見つかるよりさきに見つけ出せばいいじゃねぇか。』と続けた。

『…そっか。そうだよね。先に、見つけたらいいんだ!!!』

ギアッチョありがとう。半ば叫ぶように言ってリオはソファから立ち上がると彼に抱きつく。
その顔から、不安はもう消えているようだった。




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