重い扉が開いた。
さぁ、最後のメンバーが戻ってきた。
部屋の中で寛いでいたホルマジオはそんなことを思いながら入り口の方を見やった。彼の視界には二人の影が映るはずであった。だがしかし、彼の視線の先に見えたの一つの影のみ。
長身の男――リゾット・ネエロの姿のみ、であった。

「……リオはどうした、リゾット。」

ホルマジオの隣に居たプロシュートが入り口で立ち尽くしていたリゾットに問いかける。答えは無かった。変わりに、開いた扉から小さな風が部屋に吹き込んだ。
風が部屋の中にいた者たちの頬を撫でた。
同時に、リゾットがポツリと「リオは死んだ。」と告げた。

「……冗談だろ?」

アンタが冗談なんて珍しい。そうホルマジオは笑いながら言ってみせる。だが、彼はリゾットが嘘を吐いていないということをよく理解していた。

そしてリゾットが話し始めた。
ボスとの戦いの最中、リオが突如姿を現したこと。自分を庇うかのように、エアロ・スミスの弾丸を全身で受け止めていたこと。
"皆、ここにいるから"と告げて、この場所の住所が綴られたメモを渡されたこと。
そして――息絶えて、その亡骸が灰になって消えたこと。

「じゃあ、埋める代わりに墓を作らなくちゃならないなぁ。」

ポツリとメローネが言った。同時に、インターフォンが鳴って扉が開かれる。「やぁ、久しぶり。」と扉から顔を覗かせたジェラートは笑い、その背後からソルベが顔を出す。
事前に「生きている」とリオから聞いていたものの、流石に驚いて部屋にいた者たちはそれぞれ目を見開かせる。
そんな彼らを尻目にジェラートは「リオは?」と首を傾げた。彼の言葉にギアッチョが「死んだとよ。」と告げれば「やっぱりそうなのか。」とジェラートは眉を下げた。

「……やっぱり、って?」
「俺達さ、アイツに頼まれたんだ。」

私が死んだら、皆に伝えて欲しい。とリオから手紙を渡されたとジェラートは一枚の封筒を取り出す。そして中から数枚の便箋を取り出すと「読み上げるよ。」と一言告げて、口を動かし始める。
"二年前は唐突に消えてごめんなさい"。それが手紙の書き出しだった。




"――二年と少し前。それが皆との出会いでした。

正直に話すと、私ははじめからみんなのことを知っていました。信じられないかもしれないけれど、私は"別の世界"から来た人間だったんです。
元の世界には"この世界"にとても似た漫画があって、その漫画が大好きだったんです。勿論、漫画の中に存在していた皆によく似たキャラクター達のことも大好きでした。
だから皆のことが好きだった、っていうわけじゃないよ。この世界に来て、話して、一緒に過ごしたから、私は皆のことが大好きになった。

ホルマジオはいつも「しょうがねぇなぁ。」と言いつつ、いつも私に付き合ってくれた。
イルーゾォも、とても不器用だけど、とても優しかった。
プロシュートは顔は怖いけど、面倒見はとても良かった。
ペッシはとても穏やかな心を持っていた。
ギアッチョはいつも苛々していて怖い印象があったけど、何だかんだで私を助けてくれた。"

メローネは、ソルベは、ジェラートは――と仲間の名が上がると共に彼女の言葉が続いてく。そして便箋が最後の一枚になったころ、漸くチームのリーダーであるリゾットの名が上がった。

"リーダー。
あの時貴女が私をチームに迎え入れてくれなければ、きっと私はここまで来れなかったと思います。
本当にありがとう。心から、本当に、感謝しています。
それから、私は――――……・・・"

ふと、そこでジェラートが手紙を読み上げるのをやめた。どうした、とホルマジオが問えば「字が滲んじゃって読めない。」と彼は告げる。「だからここまで。」とも彼は言った。
そしてジェラートは便箋を封筒に入れて、再度封を閉める。同時に、その封筒をリゾットの手に押し付けた。

「どうせだから、これはリーダーが持っていてよ。」

そう言って笑って、すれ違いざまにジェラートは「文章には、続きがあるから。」と小さく告げた。
それから暫くしてのことだった。一本の電話が入った。

電話の主は――護衛チームに所属していたジョルノ・ジョバーナであった。彼は少年らしい少しキーの高い声で「すべてが終わったら、ここに連絡するように言われたんです。」と告げる。

「それから――貴方達が倒そうとしていたボスはもう居ません。僕が、新たなパッショーネの"ボス"になります。」
「言っている意味がよく分からない。」
「その言葉通りの意味です。……それから、貴方達に少し頼みたいことと、伝えたいことがあるんです。」
「………何だ。」
「僕に協力してもらいたい。」

麻薬を扱うチームと、傘下である組織の中で麻薬を取り扱っている組織を潰したいのだとジョルノ・ジョバーナは告げた。
そしてそれを手伝って欲しいのだとも彼は告げる。

「元ボスがしていたような不当な扱いはしないことを、そして十分な報酬と地位を約束します。……どうですか?」

協力してくれませんか。そう告げた声には、歯向かうことはさせないという威圧感が電話越しにひしひしと感じられた。

答えなど、決まっていた。




静寂した部屋。
久方ぶりに戻ってきたアジトの一室――リゾットの自室で、彼はジェラートから手渡された封筒を開いていた。数枚あった便箋の中から、彼が読み上げなかった文章が載っているものを探す。
たった3枚の短い手紙だったので、それはすぐに見つかった。封筒から取り出せば、便箋に綴られた言葉がリゾットの目に飛び込んでくる。

"私は、貴方が大好きでした。"

そしてそこで文章が終わる。文字にしてみればたった三文字の言葉を、リゾットは何度も何度も、読み直した。
そして彼は手紙を大事そうにたたむと、デスクの引き出しの一つに入れる。そこにはすでに一枚の写真が入れられている。

写真にには微笑んだ黒髪の少女の姿が写っている。裏返せば真っ白い紙の上に"Ti amo"という言葉が綴られていた。




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