目を覚ました。
見知らぬ一室。真っ白い天井や壁が、カーテンが、眼界に飛び込んでくる。
体を起こせば言い表せない違和感が自身を襲う。暫く首を傾げて考えていれば、正体は存外なことに早く見つかった。

――声が、出ない。
首元を覆う包帯。触ればわずかな痛みが走る。
あぁ、そうだ。眠る前――意識を失う前に私はボスに首元を抉られたのだ。恐らく、声を出させないように、自分の情報を誰かに漏らすことがないようにと彼はこれを計算して傷をつけたのだろう。
実に用意周到な男だ、と頭の片隅でそんなことを思った。

ドアが開く音がして、見たことがある男が部屋に入ってきた。男は手に持ったノートとペンを私に渡すと「調子はどうだ」と問いかけてくる。"良好ですね"と書いて見せれば面白くないとでも言いたげな表情を男は浮かべる。

"この文字が、読めるのですか?"
「当たり前だ。そこらへんに書かれてる文字となんら変わりない。」

何か奇妙なことがあるのか、と問いかけてきた男に何でもないのだと首を左右に振ることで返事をして、私は"ここはどこ"と問いかけた。
男――基チョコラータはニヤニヤと笑みを浮かべながら「ようこそ、パッショーネへ。」と告げた。








チョコラータが去り、一人となった部屋でリオは自信の首に触れる。指先が触れると同時に走る痛み。
これが私の"罰"なのか、とそんなことを思わず思った。

"仲間を守るため"という言葉を免罪符に人を殺した""
その"仲間"を裏切った""
そして――世界を、運命を、壊すという目的を持ってしまった""

「――――ッ」

たすけて、と叫べども声は声にならなかった。ただ掠れた空気のようなものが口から零れるだけ。ただそれだけ。
どんなに助けを求めたくても、どんなに苦しくても、私はもう声を出すことを赦されないのだ。
そう。
これこそが――""。

理解した途端泣き叫びたくなった。
自らの背に背負ったその罰と、これから起こるであろう悲劇を全て一人で回避せねばならないという重荷に、押しつぶされそうだった。
あぁ、だけど、それでも、私は――

"歩き続けなければならない"

目を瞑れば目蓋の裏に死んでいく仲間達の姿が写る。もう幾度と夢に見ていた姿だ。

輪切りにされたソルベ。
恐怖のあまり布を喉に詰まらせて窒息死したジェラート。
大火傷を負いながらも最後まで戦って、雨のような銃弾に被弾して死ぬホルマジオ。
パープル・ヘイズのウイルスに感染して、どろどろに溶けて消えたイルーゾォ。
列車の車輪に引き込まれ、それでもスタンドを死ぬまで解除しなかったプロシュート。ブチャラティと戦ってばらばらになって死んだペッシ。
喉に大きな穴を開けて死んだギアッチョ。
ジョルノが作り出した毒蛇に噛まれて死んだメローネ。

そして――最後に残されたリゾットはサルディニア島でボスと戦い、敗れ、身体中に穴を開けて、死ぬ。


それだけは、絶対に嫌だ。
心の中で呟いて、手をきつく握り締めた。



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