彼女が目覚めたのは、彼女が見たことも無いような街のどこかであった。


冷たいレンガの感触に眉を顰めながら、

此処はどこか。
自分は一体何故こんなところにいるのか、と必死に頭を動かす。

だが、そんな努力も空しく……何一つ理解も出来ないまま、時は流れて。
気がつけばつい先ほどまで明るかったはずの空も曇り、見知らぬ街に夜が訪れる。
街の名前も、言語さえも知らないまま、少女は当ても無く町を彷徨った。
それ以外、彼女に出来ることは何も無かったのだ。

うろうろと夜の街を一人彷徨い続ける少女。
何も知らない彼女は、闇に包まれた街がどれほど危険なのかということを何も理解していなかった。

不意に伸ばされたのは幾つもの腕。
それは彼女の綺麗に伸ばされた髪を掴み上げ、すぐに外灯の明かりなどが届かないような路地裏へその細い身体を引き込んでしまう。
悲鳴を上げる間もなく引きずり込まれた彼女に群がるいくつもの手。
ある手は口を押さえ、またある手は逃げ出さないようにと手や足を押さえつける。

――いやだ、だれか。
そう思って叫びたくても口は手で塞がれて、逃げ出すための手足も失われていた彼女には、ただその場をやり過ごすという選択肢しか無い様に思えた。
そして手が彼女の秘部に触れようと曝け出された白い太股に触れる。

瞬間、彼女の中で何かがはじけた。








「べネ。」

不意に、そんな声が聞こえた。
随分と重い気がする頭を持ち上げそちらを見やれば、路地裏の入り口に誰かが立っている。
顔を見ようと思ったが外灯の光が眩しすぎて逆行して、顔がよく見えない。

「アンタ最高。ディモールト・べネ!!!」

そう言って何者かはカツカツと靴音を立てながら彼女に近づき、目線をあわすようにしてしゃがみこんだ。
瞬間彼女の眼界に広がるのは風に揺れる美しい金と、どこか見覚えのあるような紫の仮面。

「こんな人数をスタンドで殺しちゃうなんて、最高だよ。」

まるで面白そうな玩具でも見つけたかのように――ひどく楽しそうに、少年は言った。

殺人?
スタンド?

訳が分からない、と少女が思えばどうやら顔に出ていたらしい。少年は「疑うんだったら周りを見てみろよ。」と言う。
少女は彼の言葉に従った。
そして、同時に恐ろしい現実と直面する羽目となる。

外灯の薄いかすかな光で照らされるのは幾つもの死体。
それは紛れもない、つい先ほど彼女をこの場所へと引きずりこんだ者達。
一体、何故、どうして。
そう思えばあることに気がついた。

「影が…無い?」

暗闇と同化しているわけでもなく、死体には影が無かった。

「アンタのスタンド、影を操るんじゃないの?」

少年が不思議そうに呟いた。
もう、わけがわからなかった。

全身に走る寒気も、
こみ上げてくる悲しみも、
何もかもが理解不能で、何も考えたくは無かった。

同時に少女の眼界がぐらりと歪む。
そして彼女は意識を手放したのであった。




- ナノ -