―――また、夢を見た。
それはとてもとても幸福な夢だった。
何もかもが終わり、全てが終幕を迎えて、そしてハッピーエンドとなった世界の夢。

あぁ、だけど私はそこに居ない。
たった一人で、ハッピーエンドを迎える舞台を、客席で眺め続けていた。
そして終幕を知らせるブザーと共に降ろされる幕。
席を立つ気はまだなかった。幕が完全に下がり切るまで、舞台を目に焼き付けておきたかったのだろう。
だがそんな私の思いなど露知らず、唐突に足場が崩れて、私の下半身がじわじわと闇に侵食されていこうとする。
あぁ、嫌だ。まだ、見ていたい。
泣きながらそんなことを叫んで、必死で闇から抜け出そうともがく。だけどどんなに必死になっても闇からは抜けだすことが出来ない。
そうしてとうとう私の身体のほとんどが闇におぼれてしまう。

幕はまだ下がりきっていない。
必死で叫んでまたもがいていれば、足に激しい痛みが襲う。

同時に消える景色。変わりに薄暗い部屋が眼界に飛び込んでくる。
あぁ、そうか。夢だったのか。
そんなことをぼんやりと頭の片隅で思いながら私は小さな豆電球が揺れる天井を見つめた。


不意に、扉が開く。
目をやれば見知った人物が、視界に飛び込んでくる。

『目が覚めたか』
『……ごめんなさい。』
『どういう意味だ』
『任務……失敗、しました。』

"殺す"ことは出来た、でも、"暗殺"は出来なかった。
ポツリポツリと告げれば"リーダー"は『構わない』と静かに告げてくる。
どうして、思わず問えば答えは返ってくることはなく、代わりに沈黙だけが部屋を包み込む。


『……無理に、殺す必要はない。』

唐突に、リーダーは私に告げる。
その言葉の意味や意図が分からずにぽかんと間抜け面を晒していれば、彼はまるで幼い子供に言い聞かせるかのように同じ言葉をまた繰り返し口にした。

『お前の能力なら、恐らく別のチームでもやっていける。』
『……移動、しろってことですか。』

役立たずになったのか。なってしまったのか。
もう用済みなのか。
私はもう彼らと共にいれないのか。

そんな言葉が頭の中を駆け巡って、それらを吐き出そうと口を開いてはみるが上手く言葉にすることができない。
口の中が嫌なほど渇いていて、声を出すことすら難しい。

『―――いや、です。』

漸く絞りだせた声はそんな言葉。
駄々をこねる子供のようにそれを何度も繰り返していれば悲しくなって、涙が溢れ出す。

嫌だ、嫌だ。ただそれだけを繰り返し口にして、泣きじゃくる。
本当に子供のようだと、自分でも情けなく思うほどその姿は滑稽でかつ幼かった。





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