バラバラに輪切りにされたソルベが、見えた。
次に見えたのは布切れをのどの奥に詰まらせて窒息死したジェラートの姿だった。

一体なんて悪夢だ。
リオがそう心の中で呟いた瞬間、あたりの景色が変わる。
どうやらどこかの街中らしい。だが変だ。
本来ならのどかで平和な街なのだろうけど、今は何故か赤々と燃えていた。


――声が、聞こえた。
振り返れば全身に大火傷を負い、更に幾つもの銃弾で貫かれるホルマジオの姿が彼女の眼界に飛び込んでくる。
燃える街の中で、彼は力尽きて地に伏した。
身体に開いた無数の小さな穴から赤い液体が流れて、レンガの地面に大きな水溜りを作らせる。
慌てて近づいて、声をかける。

返事は―――無かった。


所変わってどこかの遺跡。
片手を失ったイルーゾォを更に追い詰めるようにまとわりつくウイルス。
それは彼から免疫力を奪い、皮膚を溶かし、彼を消滅させようとする。

思わず悲鳴を上げて、彼に近づこうとした。
だが、足が地面に縫い付けられたかのようにぴくりとも動かない。慌てて自分の足をリオが見てみれば、そこにあるはずの足は存在せず、ただの地面があるだけだった。


テレビのチャンネルが切り替わるように、また唐突に風景が変わる。
リオは気付いた。これが――この夢が"彼ら"の死をあらわしているということに。
もう見たくない。
これ以上"彼ら"が死ぬのを見たくないと思って彼女は目を瞑ろうとした。だが足のように瞼も動かない。
まるで、"見なければいけない"と言うかのように瞼は閉じるのを拒否している。

そして、電車の前に倒れたプロシュートの無残な亡骸と
ブチャラティのスティッキー・フィンガーズによってばらばらにされたペッシの亡骸が彼女の眼界に飛び込んでくる。

思わず、名前を叫んだ。
これは夢なのだから、届かないというのも分かっていた。
それでも叫ばずには居られなかった。


そしてまた景色が変わり、
メローネとギアッチョが死んだ。

メローネはジョルノによって生命を吹き込まれた毒蛇に舌を噛まれて。
ギアッチョは首に大きな穴を開けて、死んだ。

その光景を私は、ただ眺めていることしか出来なかった。
見たくないと目を瞑ることも、死なないでと助けることも、何も出来ず――ただ、眺めることだけが、私に唯一できることだった。


漸く、最後が来た。

海の小波が聞こえる。
どこか見覚えのある崖の上に、リオは立っていた。

声が聞こえた。誰かが争う声だ。
苦しそうな声や、何かが噴出すような音までも聞こえてくる。

そして―――





自分の悲鳴で、目を覚ました。

ソファーから起き上がった瞬間、こみ上げてくるのは嗚咽と吐き気。
彼らの死に様が、亡骸が、脳裏にこびり付いたかのように消えなくて、気がつけば涙を流していた。

静かに、小さく嗚咽を零しながら真っ暗な部屋の中で涙を流す。

怖かった。悔しかった。
ただ、仲間が死んでいくのを見守ることしか出来ない自分の無力さに、腹が立った。

『死んで…ほし、くない…』

嫌だ。絶対に皆を死なせたくない。
小さく呟いて手を握り締める。自分でも哀れに思うくらいに、手は震えていた。

暗闇に慣れたらしい目で、近くの壁に掛けられているカレンダーに目をやる。
1999年と日付が書かれたそれに、ソファーから立ち上がってそっと触れる。

『あの2人が死ぬのは…今年。』

もう時間が無い。静かに呟いて息を吐く。
あと一体何ヶ月 ?何週間? 何日? ――どれほどの時間が、私には残されてるのだろう。その期間で、私には何が出来るだろうか。
どうすれば、彼らを守ることが出来るのだろう。

――分からない。あぁ、だけど…それでも、

『絶対に、守るから。』

薄暗い室内の中、呟いた声は闇に溶けて、消えていった。




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