自分に生まれなければよかったなあ、なんてぽつりと街灯の少ない深夜の住宅路を一人で歩きながら不意に思った。吹き抜ける風が刺さるように冷たい、ああもう季節は秋なのか。たったほんの一月前までは毎日暑い暑いと項垂れていたというのに。私は一体全体何度この事を思っただろう。私は長く伸びた前髪をかきあげる。そもそも人類は賢くなりすぎた。傷を負った、痛いのならば更に大きな痛みを。誰かが学んだそんな知恵によりたった今まだいるのかと思いながらも蚊にさされ痒くなったところをつねっていたりする。

「人生そんなに甘くないけどね」

暗闇に私の声が妙に響いた。いくらその痛みに更なる痛みを与えたって、決して癒えないものだってある。何をどうしたって私のこの傷は、痛みは癒えないのだ。何度自分を恨んだことだろう、何度自分を嫌み、嫌ったであろう。この身体姿形で生まれなければ幸せだったのだろうか。
何度叫んだって仕方のない、誰も助けてだってくれない。嗚呼、こんな思いをするとはあの頃はほんの数ミリたりとも考えはしていなかった。さて、彼は元気だろうか。あれは俗に言う初恋と言われるものであった。懐かしき学生時代において私の青春はほぼ彼にあったと言っても過言ではない。赤い癖のある短髪に整った顔立ち、そして吸い込まれる様な瞳に皮肉にも一目で心は奪われたのであった。

「お前馬鹿だろ」

何度も言われたその言葉は私を蔑んでいたからであろうがそれでも彼とくだらない会話が出来る事と言い終えた後の僅かに上がる口角が何よりも嬉しかった。

「サソリ、」

それは突然の事だった。こんな漫画の様な出来事がまさか自分が経験をするとは思いもしない、彼が転校をするなんて。理由はどうやら親族の都合らしい、残り共に居られる日数は一ヶ月。その一ヶ月は到頭早くも訪れてしまい、彼はとても呆気なく、私は想いを伝えられずこの町を去ってしまった。
さて、彼は元気だろうか。

「会いたい」

あれから幾つもの月日が経つがどうやらこの想いは私に傷として残る様で一向に消えてくれるはずもない。もう一度彼に会えないだろうか。もし、あの残された一ヶ月に想いを伝えられたのならば。残された私はもぬけの殻その物で、日々後悔の毎日を過ごしていた。こんなにも意気地のない自分を好きになれる術があるはずもない。ただでさえ私は自分の容姿が極端に好きではなかったのだ。もっと自信を持てたのならば、もっと勇気を持てたのならば。
私は違う未来を手に出来たのだろうか。



ふわりふわり、先程より少し優しくなった風が頬を撫でる。かつんかつんと自らが歩く音だけが暗闇に響く。ようやく自宅に着く。すると家の前で人が立っているではないか、あれは誰だ。暗くてよく見えないが、その人間はなんと赤い髪をしているではないか。

「よお、元気だったか?」



One man live



111022 企画 恋唄様提出