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可笑しい。やけにコンウェイの機嫌が良い。
普段から胡散臭い笑みを浮かべているけれど、それとはなんだか違う。本当に楽しそうに、機嫌が良さそうに笑っている。
それ自体は好ましいことなのだが、彼は帰ってきてから数時間ずっとその笑顔なのだ。正直怖い。気持ち悪い。私の身に何か恐ろしいものが降りかかりそうで、すごく怖い。
「コンウェイさーん?」
「なんだい?」
ほらまた、にっこり。
私の料理をそんなに美味しそうに食べるコンウェイなんてコンウェイらしくない。いつもなら小姑のようにこの味付けがああだの焼き加減がどうだの文句を付けるはずなのに。挙げ句の果てに「美味しいよ」と語尾にハートマークでも付きそうなくらい甘い感想を頂いてしまった。驚いて手に持っていたフォークを床に落とした私は悪くない。顔が真っ赤になってしまったのだって、コンウェイが悪い。私は絶対悪くない。
目の前にいる人物がコンウェイのフリをした別人なのではないか説を有力に考え始めた私は彼を繁々と観察する。
いつも通り憎らしい程整った芸術作品みたいな顔。
…この女顔め。よし次。服はいつもと変わらない。
「いたっ」
「今何を考えていたのかな?」
読心術でも心得ているのか、私の思考を読み取ったようなタイミングで足を踏まれた。
彼が食事マナーを破るなんて珍しい。
「ご、ごめん。いや、かっこいい顔だなと思って」
「…顔だけなんだ?」
「へ?」
どきりと心臓が跳ねた。
益々コンウェイが可笑しい。こんなことは普段絶対に言わない。それこそ、顔に関してはナルシストなのだから君と比べたらねとか何を自明の理をとか馬鹿にされるものだと思っていた。というか、私普段から馬鹿にされすぎではないだろうか。
「あ、あのさコンウェイ今日変じゃない?」
もしかしたら熱があってハイテンションになってるのかもしれない。それなら休ませてあげないと。
確か奥から二番目の引き出しに薬箱があったはず。
「いや?絶好調だよ」
「………」
コンウェイが?絶好、調…?
確信した。これはコンウェイではない。それか彼はきっといま41度9分の熱に悩まされているのだ。そうに違いないそれ以外あり得ない。
納得して薬を取りに行こうと立ち上がった私の手をコンウェイが掴んだ。目で何処に行くつもりだと問われ、私は口を開く。
「薬。コンウェイ体調悪いみたいだから」
「人の話を聞いていなかったの?絶好調だと言ったはずだけど」
「だーかーら。自覚してないだけで体調悪いんだって絶対。コンウェイ変だもん」
そう零すとコンウェイ目を瞬いて、にこりと笑った。ほらまたその笑顔。
「ボクが変だと嫌なのかい?」
「嫌…、嫌…?嫌では…ない、けど」
嫌かと聞かれればそんなことは、無いのだけれど。
ただ、あまりにもコンウェイらしからぬ言動が多いため、いちいちびっくりするというか心臓に悪いというか。
いやだから別に嫌ではないのだけれど。
「なら、構わないだろ?」
ああまたその笑顔。
彼に手で引かれて渋々席に着く。女顔と思った瞬間に反応されたことを考えるとやはりこれはコンウェイなのだろう。他人ではなかなかあそこまでの速さで対応出来まい。
なら、一体何故彼はこんなにも上機嫌なのだろう。
ワイングラスを傾けながら彼を観察する。
先ず、朝はそこまで上機嫌ではなかった。普通だったはずだ。起きて私の作った朝ご飯を食べて、確かしっかりとトマトも残して出て行ったはずだ。後から私がその可哀想なトマトを食べたのだから。
「ボクの顔になにかついてる?」
「え、いやそういうわけじゃないけど」
そう答えると、コンウェイは食器を置いて溜息をついた。あ、いつものコンウェイだ。と安心してから、溜息をつかれている『いつも』がどうなのだろうと少し悩む。
「そんなに見られていると、食べにくいんだけど」
「あ、ああごめんね。どうぞ気にせず食べてください」
「…まあ、ナマエがそんなにボクのことを見つめていたいなら仕方ないかな」
「はぁ!?違うし!!なにそれ!?」
コンウェイは意地悪げに口角を上げて笑っていた。あれ、いつものコンウェイだ。それにしても、くつくつと喉で笑っていても様になるってどういうことなのだろう。
「違うんだ?」
「違いますー。コンウェイ変だなーと思ってたけどやっぱいつも通りだから気のせいだったみたい。もう見ないので安心して食事を続けてください」
「そう」
一体なんなんだ。すごく恥ずかしい。
顔が赤くなっているのを見られたくなくて、出来うる限り顔を上げずに食事をしていると、上から声が掛けられた。
「ねえ」
「なに…ん!?」
顔を上げずに返事をすると、突然コンウェイの手が伸びてきて顎に添えられる。ぐいと上に向けさせられて声を上げると、すぐ目の前に彼の顔。
呆然と固まる私を他所に、小さくリップ音を立てて唇が離れる。椅子から体を伸ばして立ち上がっていたコンウェイがそのまま席に戻った。
そして何食わぬ顔で食事を再開する。
いや、ちょっと待ってよ。今、何が起きた。
「な、なん…」
「やっぱりボクの方を見ててくれないかな?」
その方が安心するんだ。
コンウェイの言葉に顔から火が出そうになる。
恥ずかしさから手で顔を覆うと、机に肘をついたコンウェイが小さく笑う気配がした。



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