大浴場の虜





「本当に悪かった、条件反射でつい」

あたふたと謝罪を述べるタカ、もとい純情ヤンキーを宥めつつ、運ばれてきた料理を頬張る。美味い。別に、悪気がないなら良いと答えれば、しょんぼりとした顔で料理を食べ始めた。

「ほら、食いたかったんだろ」
「!」

タカの所望していたきんぴらを箸で口に運んでやれば、先ほどまでのしょぼくれた顔を反転させて、嬉しそうにパクリと食べた。咀嚼するほどどんどん笑顔になるその姿を見ていると、俺の知らぬ間に箸がきんぴらをどんどんタカの口に運んでいた。

「そんな美味そうにきんぴら食うやつ、初めてみたぞ」
「ほんまに。どんなけ好きやねん」
「ここのは美味いからな。別にきんぴらが好きっていうか、野菜が好きっていうか」

この餌付けをされているかのようなタカの姿を犬みたいだなとこの場に居た全員が思ったことだろう。
今俺の視界だと、タカには柴犬のような耳がピンと生えていて、フサフサの尻尾はブンブンと振られている。

「野菜好きなあ。ナナ、見習ったほうがええんとちゃう」
っ、」

ミチルの言葉にナナはわざとらしく喉を詰まらせた。

「…だって……にがいし……。」

食べた時の事を思い出しながらか、ナナは目に涙を浮かべて答えている。顔立ちも可愛いだけに、その破壊力は抜群で、いや俺が悪かったと何故か謝罪を述べてしまいそうな気持ちになるが、横に座っているミチルとタカは素知らぬ顔で料理を食べ進めていた。

「…マキマキ好きだよ、ちょろいし」
「…嬉しくねえけどありがとう」

振っといて相手にしないのかよ。
ミチルにそう言いたげなナナを横目に、最後の一口をかき込んだ。



食事を終え各自部屋に戻った。暫くゆっくりして、腹が落ち着いた頃、タカは自室で筋トレをすると部屋にこもり出したので、その間ぼうっとリビングでテレビを眺めながら俺はタカが出てくるのを待っている。俺も筋トレ明日からやろう。今日は気分じゃないな。心の中でそう呟いていると、額から薄らと汗を伝わせたタカが出てきた。

「わり、待たせた」
「いいや、心ゆくまで筋トレしてくれ。水でいいか?」
「サンキュ」

コップに常温のミネラルウォーターを入れて渡してやると、それも美味そうに飲み干した。サンキュとはにかんだ笑顔が可愛らしい。

「ああ、そうだ。大浴場行ってみたいんだけどいいか?」
「……あそこ、端っこの立つシャワーんとことか、ヤってる奴ら居るから……あんまり行きたくねえんだよな」
「!なんだそりゃ…、怖い学園だな」

いや確かにそのスリルは分からなくもないが。寮という限られた生活環境の中で変な方向に楽しみを見つけてしまっている。

「…俺も一回連れ込まれかけて、」
「ああ、よし、じゃあ一秒でも俺から離れるなよ。あと盛ってるやつがいたら追い出すからどうだ?」
「それなら行く。…広い風呂好きだし」

頷いたタカに笑みを返す。
着替えやタオルを手頃な手提げに入れて支度を済ませると、ミチルとナナも誘い大浴場へと向かった。


一言で表すと広かった。
脱衣場もその近くに設置されたマッサージイスも、休憩所、自動販売機、洗面台、まるでホテルのような一流の風貌に呆気にとられる。

「あっちょエッチ」
「何がエッチだ汚いもん見せやがって」
「汚ないわ綺麗すぎてびっくりするわ」
「はーもーこんなとこでも喧嘩?底辺争いってヤダヤダ」
「誰が底辺やねん」
「お前だろ」
「俺は神に等しいし底辺とはかけ離れてるわ」

タカとミチルは飽きないのかまた口争いをしている。食堂の時止めたからか、なるべく言葉を抑えているようなので、慣習の様な軽い争いは放っておく事にした。慣れは数時間で抜けるものでもない。
脱衣場を抜けた先、浴場へ入ると、檜の湯、一番大きな大浴場、泡風呂、サウナ、水風呂、滝湯、洗い場と別れており、この学園の設備の良さに心底感謝した。

「…俺は初めてこの学園に来て良かったと思ってる」
「あはは、設備に金がかかってるところはいいよねえ。でもここにGカップのブロンドが居たらなんて」
「あかんやめろいうなナナのアホ」
「気分が悪いです、ナナくん罰としてあそこの不埒な輩止めて来てください」

ナナの両肩を後ろから掴んで、視線を滝湯のすぐ近くの壁の影の人影に向けさせる。縦にふたり重なっているので、恐らくそういう事だろう。それを見たナナはブンブンと頭を横に振って、むり、と一言呟いた。

「ブサイクはちょっと」
「いや、誰もお前が相手して来いとは言ってない」

からかい気味に投げた話題に、ナナはしかめ面を浮かべていた。
その後当初の約束通り、俺が行為に及んでいる奴らに話をつけている間に、サウナでは我慢大会が行われていたらしくくたびれた顔で水風呂に浸かるミチルとタカの姿があった。ナナはジャグジーの虜になっているので後で回収したい。
一先ず俺もサウナに入る事にした。中に入ると、先着が居たのか男が手拭いを肩に掛けて俯いている。紅い髪だ。ここの学園は校風なのかカラフルな頭が多いな。

「・・・・」
「・・・・・」

数分が経ったか、熱に外側から侵食される。じわじわと滴る汗がたまらなく、俯いて熱い息を吐き出した。しかしまだまだ限界には程遠いので、俺が話をつけていたあの短い時間でギブアップしたミチル達には勝てそうだ。後でドヤろう。

「……見ねえ顔だな」

心地の良い声が聞こえたので顔を上げると、紅い髪の男がこちらを見ていた。







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