カベジリ







カベジリ


身長は181cm、体重67kg、鍛え上げられた身体の上に君臨する色素の薄い黒髪と、鮮やかなブラウンの瞳は清廉ながらも、ふらりと手を出してしまいそうな雰囲気であると名が高い。この学園の生徒会長こと、才賀秀司(さいがしゅうじ)の生まれ持ってして他の追随を許さぬ美貌と、天才と名高い勉学の才能、そして運動能力は、彼を瞬く間に王へと祭り上げ、文字通り地を這うことなど、此れまで一度も無かった。


ーそう、今の今までは。

「・・・・・どうすんだこれ」

生徒会室でいつものように執務に励んでいたら万年筆のカートリッジのインキが無くなった。いつも取り置いてある筈の引き出しの中は最近の多忙からか空になっており、どうせならと他の備品補充ついでに倉庫へとやってきた。ああ、そこまではいい。

倉庫に入って直ぐ、目当ての品である万年筆のカートリッジの箱は、正面の棚の一番上に積まれており、手に取って降ろそうとしたその時、一本のカートリッジが下に落ち、壁へと跳ね転がっていってしまった。一体誰が開け放しにしたのかは知らないが、面倒臭いなと思いつつ、放っておくわけにもいかないので箱をもう一度棚に置いてからカートリッジを追いかけるように膝をつく。すると気付いたことがある。この壁、半分ほどダンボールで誤魔化されてはいるが、穴が開いているではないか。しかも横に随分と大きい。

『・・ったく、壊したら報告しろっつってんのに』

大方、ここら辺で暴れ回っているDクラスと風紀委員の取っ組み合いか何かで出来たものだろう。そんなに珍しいことじゃあない。というのも、ここから4つほど倉庫の部屋が続いており、この第1倉庫と第2倉庫同士は元々同じ教室だった所を分類別に簡素な板で分けられただけなので、実は壁が薄いのだ。しかも上へ登れば、山猿なら飛び越えられそうな隙間だってある。
なのでサボる為にここに入る事は不可能ではないし、それをあざとく風紀委員が見つけるのも、難しくない。血気の盛んなあいつらの事だから、うわ、また会長に怒鳴られるぞと誤魔化したんだろう。ただ言わ無かった事に腹が立つので後で追求してやる。

カートリッジは空になったペラのダンボールの下の隙間から、向こうの倉庫へと転がっていったようだった。仕方ないのでしゃがんで地面から10センチほどは高く空いているその穴をくぐり、カートリッジに手を伸ばす。一度指先を掠めたものの、取り損ねて、もう一度指先で掴んだその時、ズボリと、頭の中で何かがハマったような気がした。厳密に、現実を言うなら腰がハマった。そりゃもう綺麗に、壁に。

「落ち着け、落ち着け」

暴れたって仕方がない。
自分はどう動いた、どう入った、その道を辿れば、自ずと答えが見えてくるんじゃないのか。そう考えた才賀は少し身を捩るが、それでも抜けない。何故だと才賀が振り返ると、丁度腰にダンボールが挟まっているではないか。それも才賀の手の届く範囲ではほんの少し、向こうからだと長く飛び出ている形で。

今更考え直せば、面倒臭えなあと、あの時ずぼらにも穴から取ろうとなんてしなければ、今、こうして壁にハマる事は無かったのだ。いいや、そんな事を考えたところで後の祭りだ。
まずは解決を図ろう。
助けを求めたい。しかし悲しくも携帯は尻ポケットに入れていたので、向こう側にある。最悪だ。
なら、声を出していれば、いつか通りかかった人が来るのではないのか。確かにここは余り人気のない廊下を前にしているが、全く通らないわけじゃない。通る筈だ、しかし、おおよその確率で、Dクラスである。放課後という時間帯もあって、Dクラスどころか、帰宅し始めている教師ですら望みは薄いだろう。

このままでは一夜過ごすことになる。それも翌日見つけられたって、壁にハマった生徒会長様なんてレッテル付きだ。どうにかして、助けられる相手は知り合いで収めておきたい。

・・・そう考えて小一時間。
知り合いらしき人が通るのを待っては見たものの、全く通らない。人の声がしない。

これはもう本格的にただ叫ぶしかない。壁にハマって一夜過ごすなんて御免だ。廊下の遠くからでも、声さえ張り上げれば気づく奴がいるかもしれない。そう思い才賀は羞恥心を忘れて声を張った。

「おい!誰かいねえか!!」

・・・しかし返事は無い。いいや、諦めてたまるか、例え倉庫から聞こえる叫び声という七不思議になろうと、俺は壁にハマったまま夜を過ごしたく無い。

「誰か!!!助けてくれ!」

もう一度大きく声を張り上げた時、唐突に扉が開いた。



ーー但し後ろの方だったらしく、一体誰が来たのかさっぱりわから無いが、取り敢えず、人は来たらしい。

「悪い!壁にハマっちまったんだ、そっちから引っ張ってくんねえか!」

さっさと抜いてもらおうと声をかけると、薄い壁の向こうから聞こえたのは大笑いだった。

「ぶわっはっはっは!!おい、お前、仕事サボってなに遊んでんだよ!」

斎賀はこの声に聞き覚えがあった。想定する知り合いの中でも、最も最悪な相手だ。犬猿の仲で、いつも喧嘩の絶え無い、クソ野郎。

「・・・・ツイてねえ・・、」

才賀よりも少しだけ身長が高く、それでいて、風紀委員長という役職が似合うように、身体能力に関しては才賀さえも抜いている人呼んでミスター脳筋こと、風紀委員長の日高真咲(ひだかまさき)だ。

「なあ、なんとか言えよ。みっともなくケツ突き出してよお、襲ってほしいのか?ああ?生徒会長様?」

口角を上げ、才賀にもわかるほどに楽しそうな声で煽る日高は、壁にハマっている才賀の脚を蹴った。途端に才賀が何が起こった、と動揺して、じたじたと動く姿は相当に滑稽で、暫くの間、日高は腹筋が軋むほどに笑った。
一頻り笑ったあとに、日高ははたとこの状況を思い直してみる。
この鬼会長と名高い才賀には、散々怒鳴り散らされてきたものだ。廊下を走るなから始まり、喧嘩ばっかりしてないで勉強しろだ何だ、親のように口煩く。しかし才賀の日高に対する親のようにとは、怒鳴り散らす事のみに集約しており、友人という情は微塵も含まれていない。日高の節操の無い下半身や脱色し過ぎて白髪に近い金髪、左耳に三連のリングピアスと、ド派手な見た目から目立つ一生徒として、捉えられているのだ。

「・・・、っ助けてくれ」

薄い壁越しに才賀の声が聞こえる。きっとこの一言も、大嫌いな俺に対しての屈辱を唇で噛み締めながら言ってい
るのだろう。
想像するだけで、口角が上がる。

「なんだ聞こえねえーなあ」

もっと虐めてやりたい。クソ生意気なこいつを、ぐすぐすになるまで堕としてやりたい。
前々からずっと気に食わなかった。頭が切れるだ何だ知らないが、この俺に指図しやがって。

屈んで見れば、挟まっている理由はダンボールらしく、恐らくこれを引けば抜けるという事だ。なら、これにさえ気を付けていれば、才賀がここから逃げ出せる術など無い。

「もっと大きな声で言ってくんねえとわからねえぞ?」

才賀に語りかけながら、日高は突き出た尻を触る。秋だからかまだ薄手のスラックスらしく、厭らしい手付きで撫でてやればびくりと跳ねる様がありありとわかる。

「っテメェ何してやがんだ、」
「知ってるかあ才賀」

声に含まれる不安の色を聞いた日高は一層笑みを深くして、数度、同じ様にゆっくりと尻を、太腿を、脚の、つけ根を撫でていく。

「据え損喰わぬは男の恥、ってな」

自分でもわかっているのか、感じる身体を抑え先ほどよりも小振りにぴくぴくと小刻みに震える才賀の下半身を見て、日高は下唇を舌で舐め上げた。



相手を陥落させるのにはコツがいる。長年の節操無しの称号から導き出した日高の持論はというと、それは焦らす事に尽きる。
つい欲しくなるような、手を伸ばし過ぎない快楽を、遠回りにじりじりと与えていく。今現在、手を動かしているのも、その一つだ。ゆったりとした動作で、尻の上から、脚のつけ根までを、撫でる。何度か感じにくいようなところを撫でた後で、尻の窄まりを掌でふわりと通る。指先でもまだ触らない。

「ッ、……っ、………、」

抑えるまでも無い吐息の疼きだけが、今は才賀を支配している。直接的で無い、布を隔てて、局部を避けたさざ波のような快楽だ。これでは、もっと触って欲しくなる。いや、俺は、何を。

才賀は首を横に振る。セクハラというか、痴漢のそれに、下腹部に燻る熱は煩悩の証だ。才賀という男は、適度に遊びもしているし、溜まってもいないというのに、この与えられるだけの快楽を享受する状況だけは、非常に耐え難かった。いつも与えて得るばかりなので、想定内の事が、今は想定外の事になっている。

「っ、……ひ、…っ」

ああ、つい、言ってしまいそうだ。
焦る感情とは裏腹に、欲しいと言葉が頭に浮かんだその時、丁度良く指先が脚のつけ根を擽る。じんわりと温まるような刺激からこそばゆい刺激へと変わり、才賀は身を捩った。

指先が敏感な部分に触れてくる。尻の割れ目をなぞって、窄まりの辺りを態とらしくくるくると回ってから、指は、屹立の裏にまで。流石にそこまでくると、才賀は上半身をぶるりと震わせて、 熱い息を吐く。

「どうした、感じてんのか?」
「っる、せえんだよ…!変態野郎が、趣向替えでもしたのか?気持ち悪いからさっさと、手え離せ」
「クック、余裕がねえからだろうなあ才賀。良く喋るじゃねえか」

図星だった。早急に訪れる事の無い、気持ち良さというものが、才賀の感覚を鈍らせている。しかし今こうして言葉を交わせば、まだ足掻けるのだから、何を大人しくしていたのか。このままでは、このクソ野郎の思うツボだと、才賀は前へ前へ逃げようとする。

「漸く抵抗か?」

うるせえ。才賀は内心で呟いて、向こう側にあるであろう脚をバタつかせる。辺りを付けて空を何度か蹴ってから、その脚は偶然、日高の身体に当たった。

「おっと。危ねえだろうが」
「テメェのやってる事の方が危ねえんだよ!」

もうこんな奴に好き勝手させられるか。どうにかして、抜ける事はでき無いものか。才賀が頭を巡らせていると、日高はそんな才賀の想いなど知らぬとばかりに、下半身を抑えつけた。
脚で膝裏を固定して、下腹部に腕を回し抱き抱える。才賀は下半身をまだ動かそうと試みたが、残念ながら相手はミスター脳筋である。ビクともしない。

「助けてもらう相手に、そんな態度じゃ駄目だよなあ」

趣向替えか。才賀の言葉を頭の中で復唱させながら、日高はまた掌で窄まりに触れる。ここに挿れたら、お前はどんな顔をする?それは絶望か?

「わ、るかった、すまない、ひだか」

弱々しげに名を呼ぶ生徒会長の声に日高は苦い顔で笑う。その顔が見れないのが、酷く残念だ。

優しい手付きで屹立を撫でる。緩く勃ち上がっていることに気を良くして、日高は制服越しにやんわりと握ってやり、睾丸から屹立の先までをしゅっしゅと上下させる。日高が才賀を抑えつける為に壁に密着しているからから、向こうからくぐもった声が聞こえてきた。
堪らないのだろう。

「我慢出来ねえんなら声出してもいいぞ、そっちの方が盛り上がる」

日高が笑いながら言うと、才賀はあのいつもの怒鳴り声を返してきた。

「こ、…っんな刺激で誰が感じるかよ!」
「感じてんじゃねえか。聞こえてるぞ、お前の荒い息」
「ッ・・・・!!」

隠していたつもりだったのに、日高にはバレていたらしく、才賀は顔から火が出そうだった。この薄い壁め、生徒会室に戻ることができたら真っ先に増築してやる。
話している今も日高は手を止めることなく、一定の動作で屹立を刺激してくる。男なら誰でも弱い刺激だ。滲み出てくる先走りに狡いと思う反面、もっとしてくれと、腰が、浮いてしまう。

緩くどころか、才賀の屹立は芯を持って熱くなってきた。日高の手は尚も動作の手を早めることはせずに、同じ速度で屹立から睾丸へのスライドを繰り返す。時間が経てば経つほどに、才賀の屹立は制服を押し上げていく。苦しそうに押し殺す息も、何、抑えているのは感じる声だけでは無いのだろうと容易に想像がついて、日高は笑みを深めた。








   (prev) / (next)    

 wahs

 top

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -