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クリスマスイベント


重厚な机の上にノートパソコンが二台並んでいる。先程志乃が呆れた顔をしていたが、そういうことかと頷いて部屋を出ていったのは記憶に新しいが、まさか誰かと並んでゲームをする日が来るとは、である。
しかも実家。正直文明がここまで進んでおいてどんな絵面だ、と思いはしたものの、どうせ辻の泊まるゲストルームではさほど防音という防音も無いし、それなら二人で声を上げてやるなら同じ部屋である方がまだマシだ。

「さて、今回のイベントはなんだろうな」
「去年は収集系だったが……事前まで告知なし、……アプデ長えなオイ」

怪訝な顔になる伊織に、辻は笑った。毎度だろそんなの、と続けようとして、たしかに、いつもよりもずっと長い。それこそ、新マップが実装された時ほど、長いのである。
二人顔を見合わせた。並んで椅子に座っているが、風呂も先程入ったし、もうこれを待つばかりなので、いつも通りの雑談をしていると、ようやくアップデートが終わったようだ。

ログインして早々、緊急イベントクエストとして表示されたのは、クリスマスイベント【クリスマスカラーにちなんで2匹の龍を倒せ】である。

「「…………え?」」

龍。一口に言って、ヴィーナスでの龍とは様々なものが居る。
荒野にモブ湧きする小龍や、それの大型、属性持ちの〜ドラゴンという名称のものから、それはもうピンキリだ。

「……なんか嫌な予感がするな」
「固定人数6人だと……レッドドラゴンとか、ポイズンドラゴンじゃねえ? 普通に考えたらよ」
「まあそうか……人数としても妥当か」

険しい顔をしたものの、ひとまずダンジョン形式でボスマップへとポータルで移動するタイプのイベントであったことにほっとした。去年みたいにカラーリングを借り続けるだとか、それに合わせてアイテムがだとかは結構面倒だというのが正直なところである。

アイリーン:イベ@4
ソレイユ:挨拶ぐらいしろ
アイリーン:こん(・∀・)
辻:おっす(・∀・)
ミラ:なにあんたら一緒にログインしちゃって、もしかしてリアルでも一緒に居るの〜?
辻:アイちゃんが先にログインしたらころすぞって俺のイヤホンに囁きかけてく
ミラ:あんたら通話してのねどうりでギルチャ少ないと思ったら……
ソレイユ:ギルチャがクリーンで良いことだ
アイリーン:いねえの?
ソレイユ:ノ
ミラ:ノ
ゼッタベルダ:こん! ごめんだけど今弟子の育成で抜けられない><
リヨン:いく!見るだけ!だけど!落ちなきゃいけないから(ToT)
アイリーン:助かる、弱そうなら速攻で殺すから安心しろ
アイリーン:@1
幽遠の月:の
アイリーン:PT送った

クリーンってなんだよ、と思ったものの伊織は深くは気にせずPT申請を送る。人数合わせで手を上げてくれた幽遠の月は、他のPTで見てきたのか、面白いモン見れるぞと楽しげなチャットを続けている。
メンバーが揃うと、セントラルのポータルからクリスマスイベントを選択し、ボスマップに飛んだ。

スウウ……と光のエフェクトと共に、移動した先からすぐに、それは見えた。

「おいおい……嘘だろ?」

隣の辻の声が引きつっている。伊織もたいそう怪訝な顔で、広がった荒野のマップでも画面いっぱいに存在を主張するモンスターを見た。

ソレイユ:エレンスゲとウロボロス二体とはこれまた鬼畜仕様だな
幽遠の月:な? 面白いだろ?
ミラ:やる気がなくなってきました
リヨン:帰ろっか!
辻:(´・ω:;.:...

本来であれば、最高難易度のエンドコンテンツに属するドラゴンが、二体、そこに頓挫していた。




20180207
 
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